近代文人画の巨匠と称される富岡鉄斎(1836~1924)ですが、画と同様に書の達人としても異色の輝きを見せています。画に添える賛はもとより、表現様式は多彩で書体も楷書、行書、草書、隷書から仮名と表現の幅の広さは鉄斎の書の特徴となっています。9月22日~11月1日に史料館で開催される展覧会は「鉄斎の書」が鑑賞できる数少ない貴重な機会といえるでしょう。
35歳を境に鉄斎の書風が変わる
文人画は書画一体といわれるように鉄斎は画賛はもとより、書幅、書額、扇面、茶器、篆刻、箱書、碑文など様々な書作品を遺しています。忘備録や書物への朱書き、身の周りの器や箱にも所狭しと画や文字を書き入れ、「書き魔」といわれたりもしますが、内容は鉄斎の深い知識、見識に基づいています。
若い頃の書は、大田垣蓮月尼や貫名菘翁、蕫其昌の影響が見られ細線で円転する軽やかなリズムの連綿行書体で書かれていましたが、文人世界を憧憬した30歳後半から書作品も大きく変わっていったといいます。
40歳代からは独自の書風を表現、歳を経て強い個性を前面に打ち出すようになり、70歳代には強烈ともいえる鉄斎書風を確立しました。書道家で新潟大学教授として務め、退任記念論文に「鉄斎の書」を著している野中吟雪氏は「明治・大正期の書の世界においても鉄斎の豪放で雅趣豊かな作品は特異な存在であり、異彩を放っている」と『鉄斎美術館開館十五周年のあゆみ』に寄せています。
大正9年85歳の『丈夫心事二行書』(展示作品)は型破りともいえる筆で、鉄斎の画にも通じる自由奔放さが際立つ作品です。
晩年に親交のあった清荒神清澄寺第37世法主・坂本光浄和上から書の手本を望まれ89歳の時に書した「前赤壁賦書」は最晩年とは思えぬ力強い筆に驚かされます。
また、鉄斎は京都の車折神社や清明神社など縁ある神社の社号や尊敬する人物を顕彰する石碑なども多く遺しています。
*10月号では「鉄斎の書」に展示される作品を中心に紹介します。

大阪・千早赤阪村にある「楠公誕生地碑」
前赤壁賦書 大正13年 89歳
「鉄斎の書」展
会期:9月22日(火・祝)~11月1日(日)
開館時間:10時~16時30分
会場:鉄斎美術館別館史料館 月曜休館 無料