鉄斎美術館は初めてですが、日本地図や見取り図など史料的なものもあれば、大和絵風の色彩が鮮やかな画や墨が力強い水墨画、即興のスケッチ画のようなものまであって楽しみながら観ることができました。
表装がとても気になったのは、「土佐古府蹟之図」(左上の写真、フジモトさんの右後)。土佐の高知にある平安時代の官人・紀夏井の旧蹟の古瓦の拓本を、幾つもあしらっていて、形も横長の掛軸でとても斬新。鉄斎自身が考案したと聞いてそのデザインセンスに驚きました。
私はちょっと変わっていたのか小さい頃から掛軸が好きで、長い紙に折り紙を切って貼りつけて遊んでいたので、父に「きっと表具屋をやっていた祖父さんに似たんや」と言われていました。
鉄斎の画は、ただ美しい風景を切り取って描いたというのではなく、なぜその地を描いたのか、という強い思いが込められているので、観る側にその場の空気感までが伝わってくるんでしょうね。
六曲一双の屏風「名所十二景図」のうちの一図、蝦夷のローソク岩の図に添えられていた小さなスケッチは旅のリアリティを感じさせてくれます。実際の作品はスケッチより、迫力があって、岩からは不思議なエネルギーが伝わってくるようでした。
私も岩に惹かれていて岩のぬいぐるみをいくつも作っているので、嬉しくなりました。
鉄斎が89歳で描いた作品「山紫水明処図」に押されている「曼陀羅窟」という印は、流派にとらわれず、さまざまな思想や知識、手法を自分の中に取り込んで、多くの引き出しの中からオリジナルな作品を創っていく、そんな鉄斎の姿勢を表しているようで、オリジナリティを大切にした父・藤本義一の教えと重なりました。
▲フジモト芽子(ふじもとまいこ)・作家藤本義一氏の二女として堺市に生まれる。4歳の頃、ディックブルーナの絵本を見てグラフィックに興味を持つ。雑貨や小物デザインの仕事を経て、個展・挿絵など創作作家として活動を開始。著書に「旅するコットン人形」(たる出版)など