鉄斎美術館は宝塚造形芸術大学(現宝塚大学)の博物館学の授業で何回か訪れています。前館長で大学の講師をされていた故村越英明先生の講義の実習でした。僕は彫刻を専攻していましたが、高校時代に富士の火口を描いた「富士山図」を観て以来、鉄斎はインプットされていましたね。村越先生に「あくまでもアーティストを目指して頑張れ」といわれたことを思い出します。
35周年記念の掉尾を飾る展覧会は、鉄斎が使った落款印や遊印が展示され、画と印のコラボが楽しめるユニークな展覧会で、興味がありました。展示されている画に捺された印は、鏡で印面が見えるようになっていて、印姿や印文、印影からなぜ鉄斎がその印にこだわり、手ずから捺したのか、が解ってきて画への興味も増します。定形にしばられず印を捺しているのが、奔放な鉄斎らしく面白い。そして、印影が画の一部になっています。
桑名鉄城や園田湖城という著名な篆刻家に依頼したものも多いですが、鉄斎が自ら刻した印は味わい深く印象に残りました。
自刻印は51顆あるそうです。《大布放賭図》(第1回展示)は大黒と布袋が双六をしているひょうきんな画で、竹の根っこに刻された変わった自刻印が落款印として捺されていましたが、天真爛漫な鉄斎の人柄が伝わってきました。
《薬王菩薩像》(第1回展示、左上の写真)に捺されている美作誕生寺の遺材で作った大きな六角形の印、虫食いのある木に刻された印など、鉄斎にとって印文はもちろん、印材にも意味があったのでしょう。僕が震災後、倒壊した我が家の廃材で作品を作ったのも、木の記憶を伝えたかったからです。
自然石や木の素材を生かした印姿、獅子や象や亀などの鈕、中でも扶桑木という植物化石に刻された印は珍しいものでした。
第2回には「雲龍図」に捺された印面21センチ四方の青磁印が展示されるので楽しみです。
大野良平・宝塚市生まれ。
1987年に創立した宝塚造形芸術大学(現宝塚大学)の1期生。今村輝久教授に彫刻を師事。震災後10年目にサンビオラの空き店舗で再生をテーマに「宝塚現代美術展・店」を開催。武庫川の中州に石で「生」の文字を描いた。その風景は2008年に出版された宝塚在住の作家、有川浩氏著のベストセラー「阪急電車」の題材にもなっている。