イベントプロデューサー 茶谷幸治さんと観る 鉄斎 —用印のすべて— 

イベントプロデューサー 茶谷幸治さんと観る 鉄斎 —用印のすべて— 

鉄斎美術館開館35周年の掉尾を飾る展覧会「鉄斎-用印のすべて-」第3回が11月11日から12月12日まで開催されています。画に捺された落款印、引首印、押脚印の多さは鉄斎の右に出るものはないと言われるほどです。60年に及ぶ画業の中で用いられた印は500種を越え、刻者は高名な高芙蓉、頼山陽、桑名鉄城を始め、中国の羅振玉、呉昌碩など多彩で、自ら刻した用印も50顆あり、若いころ篆刻家を志していたと言われるだけに、趣のある印を遺しています。イベントプロデューサーで宝塚市制40周年の企画にも携わったことのある茶谷幸治さんと鉄斎の印の世界を堪能しました。

鉄斎美術館にもっと注目すべき

鉄斎の奔放さは画だけではなく印にも表れているのが、この展覧会を観るとよくわかります。鉄斎にとって印は単なる作者の証明印ではなく、作品の一部になっていて、賛の頭に捺す引首印、名前や号を示す落款印、その他遊印が自在に捺され、画が一つの宇宙空間になっているかのようです。印に意志の力を感じますね。

 画や書、そして印からも形にとらわれない生き方が伝わってきます。

 秋にふさわしい、紅葉の名所、東福寺の通天橋を描いた《高遊外売茶図》(第2回展示)が展示されていましたが、画中に捺されている「売茶八十翁」の印は煎茶道に傾注し、煎茶に因む画を多く描いている鉄斎が、千家十職の黒田正玄から譲り受け、大切にしていた印とのこと。2013年は売茶翁没後250年に当たり、煎茶が流行した大阪の船場を中心にイベントの企画がすすめられているところで、私もプロデューサーとしてかかわる予定なので、この画との出合いによって構想が膨らんで行きそうです。


 《雲竜図》(第2回展示、左上の写真)はそこに捺された初公開の21センチ四方の印が、力強く渦巻く龍に負けない迫力で対峙しています。印文は『曲江観涛』。印材は青磁、刻者は磁印の名手、田辺玄々、印鈕は獅子。印の世界を深く知り、楽しみ尽くしたのが鉄斎なんでしょう。

 鉄斎は画家というだけではなく、思想家という側面も持っているので、精神性を重んじ、俗を排した鉄斎の生き方は、物が溢れ、情報が氾濫し、うすっぺらになっている現代に、人間本来のあるべき姿を示しているのではないかとも感じました。

 鉄斎芸術は宝塚市にとって誇れる文化遺産ですからもっと市民は注目すべきです。

イベントプロデューサー 茶谷幸治さんと観る 鉄斎 —用印のすべて— 

茶谷 幸治(ちゃたに こうじ)・1946年大阪生れ。
93年「アーバンリゾートフェア神戸’93」、99年「ジャパンエキスポ南紀熊野体験博」、同年「しまなみ海道’99」の広島・愛媛両県総合プロデューサーなど、地域主導、住民主体の地域活性化イベントを主唱し、その集大成が2006年「長崎さるく博」で、日本初のまち歩き博覧会を市民主体で成功させた。現在、大阪コミュニティ・ツーリズム推進連絡協議会のチーフ・プロデューサーとして「大阪あそ歩」を進めている。著書に『まち歩きが観光を変える』(学芸出版社)『イベント化社会』(関学出版会)

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