書に打ち込んでいた頃に鉄斎生誕150年展を京都で鑑賞しましたが、私はその後中国水墨画に出会い、中国文学や文化を学び、水墨画の奥深さに気づかされました。私の師である呉一平氏も1986年に上海で開かれた鉄斎展を観られたそうです。
鉄斎が中国を訪れることが無かったことに驚かれていました。
この展覧会は神道、儒教、仏教、道教などを大らかに取り入れた鉄斎の考え方、生き方が窺えます。中国では今も道教が広く根付いていて、日本には七夕やお月見、中元などの風習として入って来ていますね。
蓬莱山に棲む仙人が鶴に乗って飛来する寿老人を迎える「蓬莱群僊会図」や「瀛州僊境図」などの仙境図は長寿を最も尊いと考える教えに基づいていますし、「青龍起雲図」の青龍も火災を防ぐという道教の神です。
ポスターになっている「聚沙為塔図」(右上の写真)は仏の供養に子どもらが砂を集めて仏塔をつくる姿がいきいきした表情で描かれていて親しみを感じます。88歳で描いた「普陀落山観世音菩薩像」(左上の写真、児玉さんの後方左)は墨の濃淡が美しく、かすれや滲みが生かされ、賛の位置や文字、印、そして余白までを含めた全体のバランスが見事ですね。
鉄斎は一番難しいと言われる余白の表現がすばらしい。実際に見える部分「実」と見えない部分「虚」を描くのが水墨画で、それは時として空にも雲にも水にもなり、「気」をも感じさせてくれます。鉄斎の画には中国絵画でいう「気韻生動」を感じることができます。
日本の水墨画は墨で描く風景画といった傾向が強くなっていますが、本来の水墨画は鉄斎がいうようにまず賛があり、その思いや意味を山や川など自然を通して描く、胸中の風景です。私が水墨画を描くのも風景のうちにある精神を表現したいからです。
宝塚には鉄斎という巨匠の描く水墨画作品を気軽に観ることができる美術館があるのですから、千年の伝統を持つ水墨画の魅力をじっくり味わってほしいものです。
▲児玉幽苑(こだまゆうえん)・1949年生れ。宝塚高校出身。幼少より書に親しみ、栗原葦水に師事。30歳で花鳥画を始め、50歳から関西大学文学部で中国文学を学ぶ。大学卒業後、山水画を中国上海の呉一平に師事。08年雪舟国際美術協会展特選、09年モナコ日本芸術祭リベルテ賞。2013年11月、第9回個展開催