鉄斎といえば、私の中では豪放な筆遣いの大胆な水墨画のイメージでしたが、「鉄斎の器玩」では、煎茶に親しむ等身大の鉄斎さんに触れ、とても身近に感じることができました。
鉄斎は売茶翁を敬慕し、「売茶翁茶器図」という本を参考に、交流のあった工芸家と茶道具を復現しています。これらは「煎茶皆具」として展示され、興味深いものでした。指物師、中島菊斎との合作、網代の器局や都藍、瓢箪をくりぬいた瓢杓、雲林院宝山との合作で鉄斎が味のある書を付けた急須や煎茶碗など、どれも卓越した職人との出会いがあったからこそ実現した素晴らしいものです。
こうした茶道具は実際、茶会で用いられていたこともわかっているそうです。
鉄斎と親しかった虎屋京都店の主人が主催した大正13年の売茶翁供養茶会で用いられた茶道具が展示されているコーナーには、茶会のために新たに作られた鉄斎書の「清風書売茶式大茶旗」(前期)の他、黒川家の廃材で作られたつるべ形の花器があり、歴史を内包したその花器に惹かれました。私も幼い頃の風景を思い浮かべて、鉄製のつるべに野の花を生けたことがあります。
「高遊外売茶図」(前期展示、阪上さんの右後)は、茶を煮る売茶翁が描かれ、茶道具が忠実に表現されていて、煎茶道のルーツを見るようで、その精神までもが伝わってくるようでした。
売茶翁像も数点展示されていますが、売茶翁と交遊のあった伊藤若冲が描き、翁の詩偈集「売茶翁偈語」の中に掲載されている肖像画を鉄斎が写した図もありました。鉄斎美術館で伊藤若冲に関する資料に出会えるとは思ってもいませんでした。鉄斎は若冲作品を数多く写しているそうです。
私は野の花を生け、和の暮らしをライフワークにしていますが、この展覧会では日本人が忘れてしまった、静かな時の流れと心遣いを感じることができました。
▲小原流生花田中豊啓姉に師事、小原流准教授習得(小原豊泰)後、樫尾光苑姉に師事。フラワーアレンジメントに出会い、日本アレンジメントで学ぶ。その後、日本の野の花に魅せられ独自の創作生花を展開、「ルジュ・フルーリはな野」を主宰。2009年創立15周年花展を「静思館」(猪名川町)で開催。2011年「野の花とつむぐ和の暮らし」を出版