平松紀美代さんと観る 鉄斎 — 水墨神韻 —

平松紀美代さんと観る 鉄斎 — 水墨神韻 —

 桜の開花を心待ちにした今春、清荒神清澄寺境内にある山桜の蕾を眺めながら、鉄斎美術館に向かうと、根尾谷ゆかりの淡墨桜は一足早く満開、一幅の画を見るようです。鉄斎美術館では4月3日から「鉄斎-水墨神韻-」展が開催され、墨癖と自らを称し、画題や表現によって墨を選んだ鉄斎ならではの水墨画が所用の墨とともに展示されています。甲山を望む逆瀬川の自宅にギャラリーを併設、自分の表現手段として水彩を描く平松紀美子さんと前期展示を鑑賞し、鉄斎の「気」が渦巻く水墨の世界に遊びました。

「気」が充ちている鉄斎の水と雲

  清荒神清澄寺という神仏習合の神聖な場に鉄斎の作品が集まっているのは意味があることのように思えます。印度から中国を経由して伝わった仏教が日本古来の神道と融合したように中国から学んだ水墨も鉄斎の中で熟成され、鉄斎の水墨画に昇華したといえるのではないでしょうか。

「鉄斎-水墨神韻-」展は鉄斎ならではの墨表現のすばらしさが堪能できる展覧会です。
 濃墨、淡墨、渇墨で色までを表現することに加え、静けさや息づかいまで感じさせます。日本の景色を六曲一双屏風に描いた名所十二景図の「華厳飛泉」からは水の音が聞こえてきそうですし、耶馬渓を描いた「山国洞門」は洞窟に吸い込まれるよう、淡路「おのころじま」の波の表現には神性を感じました。

 墨一色で描かれた大作「大瀑図」(左上写真、平松さんの右後ろ)は、離れて鑑賞すると広がりを感じ、筆を入れず白く残して表現している滝の水表現は圧巻です。同じく、墨一色で描かれた「雲山化城図」(ポスターに使用)は世俗を離れた深山の唐僧、禅月の居、手前にはそこに至る山道が描かれていますが、鉄斎は無意識の中に自然との一体感を感じているというのがわかりますね。筆の他に棒墨を使っているのも面白いです。

 また、鉄斎の水墨は淡彩が効果的に使われ、墨と代赭や緑青がうまく融合していて、墨と色が互いを妨げていません。鉄斎が生み出した独自の水墨画のような気がします。

 会場には墨癖と称する鉄斎が実際使っていた墨が37点も展示されていましたが、蝋燭の煤を集めて作る昔ながらの墨づくりにも想いを馳せることが出来、古民家風な暮らしが好きな私にとって、日本のすばらしさを再認識する時間でした。

 最後に展示されていた89歳の作品「富士山図」はこれまで見たなかで、一番こころ動かされた霊峰富士。鉄斎の雲からは「気」が流れています。

平松紀美代さんと観る 鉄斎 — 水墨神韻 —

▲平松紀美代・1948年兵庫県生まれ。2001年高校英語教師を退職後、宝塚・神戸・京都にて水彩画の個展15回、国内美術展(東京上野の森美術館)の他、海外ではオランダ、ドイツ、モナコ、中国などの美術展に出展。自宅の「ギャラリー紀」で作品展を開催中

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