近代日本において文人画家として確固たる位置を得た鉄斎ですが、自身は画工とみなされることを嫌って、終生学者を自任したといわれています。そして「南画の根本は学問にあり、人格を研かなくては画いた絵は三文の価値もない」との言葉を遺しています。
鉄斎は数万冊にも及ぶ書物を読破することで古人の心に触れ、深い教養と高潔な精神を養いました。中国故事や和漢の書物から画題を得た多彩な作品には、示唆に富んだ賛が寄せられています。鉄斎が、「私の画を見るなら、まず賛を読んでほしい」と述べる所以です。
展覧会では、独自の画境を確立した晩年の名品を中心に展示されています。鉄斎が敬愛する中国の文人・蘇東坡を描いた「東坡帰院図」には、鉄斎旧蔵の稀覯本『東坡先生年譜』、また、千利休が茶人丿貫を山科の庵に訪ねた図「休師訪丿貫図」には、江戸時代の『茶話指月集』など出典となった書物も併せて見ることができます。
88歳で描いた「瓢中快適図」には、「悠々自適に天性を全うし、書物を枕に安楽の境地」との自作の詩が書かれ、鉄斎が理想とした晩年の姿を見るようです(左写真)。書巻の気を感じながら鉄斎の世界を存分に愉しんでみたいものです。