鉄斎美術館はアトリエからも近く、年1、2回は足を運びますが、画の構図や筆致を観るのが目的で、画題を掘り下げて鑑賞したのは初めてのことです。タイトルの「文人多癖」に興味を持ちました。
会場入り口には鉄斎が自身の室号にしていた「曼陀羅窟書」の扁額が掛けられていましたが、鉄斎曰く「人はまだらが面白い」そうです。
僕も曼陀羅に興味を持ち、瑞泉寺が所有する「当麻曼陀羅」を写し、針金で初めて仏を制作しているところです。
画を観ると、様々な癖を持っているのが文人たる所以のように思え、とても興味深いです。
筆を自在に使いこなせるようにと鵞鳥を愛する王羲之、石を敬愛する米芾、茶具一式を担ぎ市街で問答する売茶翁など、鉄斎が描いた画から文人たちの偏愛ぶりが見て取れます。
勿論、鉄斎自身の多癖は見事なもので、敬愛した人物では中国宋の文人、蘇東坡への傾倒ぶりは有名で、会場正面には東坡コーナーがありました。誰とでも談笑したという東坡の談鬼癖を描いた「蘇子談癖図」や「東坡談図」。88歳の作品「貽笑墨戯帖」は13面全てが展示されるのは初めてだそうです。
印癖でもある鉄斎が、東坡と同じ誕生日を喜んで作成した「東坡同日生」印が作品の中に捺されているのを観ることが出来ます。
癖の最たるものだと嬉しくなった作品は、89歳で描いた「能因法師図」。平安時代の僧侶と風流者が大切にしている古い木片と干からびたカエルを見せ合って悦に入っている図。これは鉄斎が理想とする境地ではないでしょうか。
僕が教えている大学の国際交流学部では、学生同士が自分の癖(偏愛)を出し合って、情報を共有する中で、お互いの人間像をイメージして似顔絵を描いたりするのですが、癖をオープンにすることで他者とのコミュニケーションも深くなります。多癖は人生を豊かにすることを鉄斎は教えてくれているようで時間が経つのも忘れて見入りました。猫好きの方には初公開の「画猫談叢」も必見