中国に端を発する文人と言われる芸術家は書画以外に多くの嗜みを持ち、今でいうマニア、オタクの一面を持っていました。それは「癖」といわれ、特定の嗜好物に対する異常な執着、偏愛を表します。有名なのは中国の書家・王羲之の鵞癖、陶淵明の菊癖、李白の酒癖、陸羽の茶癖、蘇東坡の談鬼癖などですが、若い頃から中国の文人世界に憧れていた鉄斎もまた、多癖の士として知られています。書癖・考証癖・煙霞癖(旅行)・茶癖・印癖・墨癖・東坡癖・富士癖、等々。
文人として生きた鉄斎の人生にとって欠くことのできないのが「癖」であり、中でも学問は自らを娯しませる第一の「癖」だったといえるでしょう。
展覧会では中国の文人や日本の畸人たちの非凡な精神に学び、のめり込んだ鉄斎の「癖好」を多彩な作品を通して観ることができます。前期展では、蘇東坡を題材にした《東坡談図》、宋末元初の画僧・牧谿の画法に倣ったとする《漁邨暮雨図》などが展示されます。また、後期展には、今回初公開となる《鎮国山図》、特別展示として代表作の《富士山図》屏風なども登場します。