20年ぐらい前、小林秀雄の書物に鉄斎のことが書かれていて、興味を持ち、近くに鉄斎美術館があるというので足を運ぶようになりました。人が行き交う参道には面白い店があって覗きながら登ると、「蓬莱山」の扁額がかけられた山門に辿り着き、清荒神の境内を通って、さらに奥に進む。するとちょっと空気が変わります。清閑な空間、そこに佇む鉄斎美術館。館の前にある楚々とした淡墨桜も毎年、見に来ます。
最初に観た時も思ったんですが、年代順に展示されている作品が、年齢とともに素晴らしくなっている。この展覧会は還暦以降の作品ばかりなのにエネルギーが溢れています。何の制約も受けず、自由自在に描いていて、観る者に迫ってくると言うか、音までが聴こえて来ます。
作品の中に書かれている賛を読むことはできないんですが、僕はどんな絵を観るときも説明は読みません。先入観無く、画から直接、感じ取りたいので。鉄斎の賛は画と調和していて視覚的に美しいし、グラフィック的で余白が絶妙です。
印象に残ったのは87歳の作品「赤壁四面図」(左の写真、右前)。紙の白だけで表された長江に浮かぶいくつもの岩と薄墨の波に揺られる東坡の船、月の仄かな光が静謐な世界を浮かび上がらせ美しい。
鉄斎が敬愛した宋の文人・蘇東坡に因んだ作品が数点展示されているうちの一つです。同日生まれだった鉄斎は「東坡同日生」と刻した印章を落款に捺していたり、最晩年には「九十」と記している作品もあり、長寿を謳歌していたんではないでしょうか。
僕は鉄斎の画を観て美術館を出るときはいつも元気をもらっている。「歳とともにどんどん良くなっていけるんや」って。
▲金森幸介・1951年大阪に生まれる。1970年毎日放送「ヤングタウン」でデビュー。代表作「悲しい日々」は山崎まさよし、上田正樹がカバー、宝塚歌劇「銀ちゃんの恋」の劇中歌となる。10月名古屋から北海道までライブツアー。嘉門達夫の自伝小説「丘の上の綺羅星」が舞台化され金森幸介役も登場。