鉄斎美術館を初めて訪ね、宝塚に住んでいながら、なぜこれまで来なかったのかと凄く後悔しました。最近、敬愛するモネ展を観たのですが、晩年の作品は重たくてちょっと心が疲れてしまいました。鉄斎は晩年の作品ほど勢いがあって、その力強さに驚かされます。89歳まで長生きし、最晩年まで衰えない筆致で描いています。亡くなる三日前に主治医に贈ったという「瀛洲僊境図」(左上の写真 右手)は、梅の代赭色が墨の濃淡で表された岩山に映えて薫っているような、躍動的な作品で心に残ります。
鉄斎は86歳にして初めての個展を大阪の高島屋で催し、米寿の年に開催された個展では、「米寿墨戯」という画集が刊行されたと伺いました。その中に収録されている「瀛洲僊境図」は目が離せない作品でした。山の表現に使われている群青が美しくて感動しました。私も青が好きで、青にこだわりを持って描いています。フェルメールのラピスラズリの青は有名ですね。
また、鉄斎は洋画のように目の前のものをスケッチするのではなく、書物からの情報と現実に見聞した風景や事象を自分の引き出しに収め、咀嚼して画に表現していますが、すばらしい創造力だと思います。
「布袋遊戯図」の18人の童子が戯れる姿も空想の中で描かれたのでしょうけど、それぞれの笑顔に愛らしさが滲み出ています。私も水彩で子どもをよく描きますが、空想しながら無いものを形にしていくのは鉄斎と同じだと思うとさらに創作に意欲がわいてきます。
会場には、賀寿を記念して描き、ゆかりのひとに贈られた吉祥画題の作品も多く展示されていますが、人に喜んでもらうために純粋に楽しんで描いている鉄斎の姿勢は、絵を描く原点といえるのではないでしょうか。黄金の銀杏が色づいたころもう一度訪れてみたいと思います。
▲おかもとゆみ・企業の販促部や印刷会社のデザイナーを経てフリーのイラスタレーターに。現在、水彩色鉛筆と透明水彩画の講師として宝塚・大阪・神戸9カ所のカルチャー教室で指導に当たる。毎年国内外で多数展覧会を開催し2016年11月小大丸画廊にて受講生による合同作品展。宝塚希望の家ワークセンターと共同制作した一筆箋は宝塚市のふるさと納税の記念品になっている。