鉄斎といえば、日本や中国の故事から画題を得、老荘思想をテーマとした山水画や仙境図など多くの文人画の名作を遺したことで知られますが、富士山図をはじめ日本の風景や風俗、旧跡なども多く描き、名品を遺しています。
鉄斎は万里の路を行くがごとく、北海道から鹿児島まで日本国中を自らの足で歩き旅をしましたが、その目的は名所旧跡を巡る物見遊山ではなく、先哲を弔い、その土地の地理、歴史、風俗を研究することにあったといいます。鉄斎の中に蓄積された知識や思想を基に、胸中に刻み込まれた風景は画となって見事に表現されています。鉄斎は数え89歳で亡くなるまで、旅の足跡を追憶し、日本の景を描き続け、最晩年にも「富士山図」を描いています。
展覧会では、各地の名勝のうちから鉄斎が自ら選んだ「名所十二景図」「扶桑勝区帖」や土地の人びとの生き生きとした生活を捉えた「三津浜漁市図」「蝦夷人鶴舞図」など、画を観ながら日本中を旅することができます。サブタイトルの「足跡、天下に遍し」は旅に明け暮れる鉄斎に友人の江馬天江が刻して贈った印章の印文です。印など遺愛品や絵図、旅行記も併せて展示されるので楽しむことができます。