鉄斎といえば最も有名な「富士山図」「青緑山水図」の屏風や、「群僊集会図」に代表される仙境図を思い起こしますが、和漢の史伝や故事逸話を題材に多くの人物画を遺しています。
鉄斎は「万巻の書を読み、万里の道を行く」を実践する中で、敬慕する歴史上の人物や文人墨客の事跡を全国各地に訪ね、彼らを弔い顕彰することに情熱を注ぎ、画に遺しました。勤皇の志を抱き国事に奔走していた若い頃には楠木正成や赤穂義士の肖像を好んで描きました。年齢とともに筆致は大胆になり、一休和尚と蓮如上人の逸話を描いた89歳の作「聖者問答図」などには大らかでユーモラスな人物表現を見ることができます。
一人ひとりの表情やしぐさを丁寧に描き分けた「赤穂義士像」(写真)、対照的ともいえる大津絵風の愉快な人物像「擬土佐又平筆法遊戯人物図」(写真)まで、鉄斎の群像の面白さも味わうことができます。
日本に主題を持つ作品に焦点が当てられた人物画の展覧会「鉄斎―人物画の魅力―」。誰もが知る歴史上の人物は鉄斎の筆でどう描かれているのでしょうか。