鉄斎の画には物語性があって
描かれていないものまで見えてくる
鉄斎が描いた猫の画が展示されていると聞いて猫好きの私は、まず「画猫談叢」(前期展示)から見始めました。「書物をかじる鼠を避けるために猫を描いた」という鉄斎が敬愛する宋の文人・蘇東坡の詩文に因んでいるようです。画帖の中にはペルシャ産の絵の具を使った、鉄斎のこだわりを感じるペルシャ猫も描かれていました。
後期にはチラシにもあしらわれている、ハート形の顔が可愛い猫が描かれた「東坡談図」(右上の写真)が展示されています。
中国の文人は詩文書画以外に様々な「癖」を持っていて、その人物を象徴するものとして画の中に癖好が描かれています。鵞鳥なら書聖・王羲之、菊なら文学者・陶淵明、梅と鶴なら詩人・林和靖というふうに、人物が判るのも楽しい発見だなと思います。
東坡を敬愛した鉄斎の東坡癖が顕著に表れていると思ったのが、「東坡同日生」の印。東坡と同じ誕生日に驚喜しただろう、と想像できます。私も、ドイツ人の劇作家で詩も書いているブレヒトと同じ誕生日なのが密かな自慢で、フランスでも取り上げられる事の多いブレヒトソングをCDにしています。
「朱梅図」(前期)にも「東坡同日生」の印が捺されていましたが、筆に勢いがあって画面から枝がはみ出しそうな力強い構図が印象に残りました。
東坡に因んだ画も収録されている「貽笑墨戯帖」は88歳の作品で、準備されていた米寿の祝いが関東大震災によって中止となり、懇意の人に本画帖の精巧な複製版画を作り返礼とし、鉄斎と親交のあった清澄寺先々代の光浄和上にも贈られたそうです。
89歳の作品「梅華書屋図」(前期)や亡くなる三日前に描いたという「扶桑神境図」(前期)は緑青が美しくとても素敵な作品で、墨と緑青と代赭と群青の4色しか使っていないのに色鮮やかなのが不思議なくらいです。
鉄斎の画には物語性があって描かれていないものが見えてくるような…
シャンソンも物語を語るように歌います。
展覧会では鉄斎の画をシャンソンを聴くように見ることができ、私の中にあった鉄斎のイメージが変わりました。