鉄斎の胸中に刻み込まれた風景
鉄斎の旅の意味は、美しい日本の風景を作品に遺すことだけではなく、地理研究と先哲の遺像古墳を訪ね捜索することにあったといいます。そして、多くのスケッチや旅日記をもとに作品に仕上げています。会期を通して展示されている『扶桑勝区帖』には40歳代で訪れた北海道や火口まで登頂した富士山を始め、大分の耶馬渓や御岳山などの景も描かれ興味が尽きません。69歳で描いた名品、六曲一双屏風『名所十二景図』はアイヌの地を訪れた記録や富士山の御鉢巡りをした記録をもとに作品が仕上げられ圧巻ですが、画帖に描かれた鉄斎の胸中に刻み込まれた風景も味わい深いものがあります。鉄斎の胸中に思いを馳せ、ともに旅気分を味わってはいかがでしょうか。
鉄斎が自らの足で訪ねた名所旧跡のうち、胸中に刻み込まれた二十景を描いた画帖で、題箋に「扶桑勝区帖」とある。北海道の羊蹄山、宮城の松島、群馬の妙義山、奈良の月ヶ瀬、有馬の屏風岩、山口の長門、大分の耶馬渓など、描かれる風景は北から南まで全国各地にわたる。賛には、各地にゆかりのある和歌や漢詩が添えられ、いっそう味わい深いものになっている。富士山に取材した《鎮国山帖》と対をなす。