画の中に入っていきたくなる鉄斎の仙境図
自然の風景やその中に溶け込む人物、庵を描く山水画。中国・明の文人薫其昌は「万巻の書を読み、万里の路を行き、胸中より塵濁を脱去すれば、自然、丘壡、内に営まれ、鄞鄂(輪郭、形)を成す。手に髄って写生すれば皆山水の伝神たらん」という言葉を遺し、この語を座右の銘とした鉄斎は若いころから最晩年に至るまで数多くの山水画を描いています。それは日本の風景に始まり、中国の文人画に学んだ、桃源郷や蓬莱山など仙人が住むと言われる理想郷を描いた仙境図まで多様な作品となって遺されています。
富士登山から帰洛後に詠んだ自作詩には「下界は夏の真っ盛りであるが、私が富士山の絶頂でただ一人風に乗って、ちょっとした仙人になっていることを誰が知っていようぞ」とあり、富士にも仙境を見ていたことが窺えます。89歳で描いた『梅華書屋図』は無数の梅樹と巨岩が中央の茅葺の庵を包みこむように構成され現世の仙境と評されるほどに幻想的な作品です。また、大正13年大晦日に没する直前、正月掛け用として描いた『扶桑神境図』は墨のかすれを自在に使った力強く大胆な筆致で老齢を全く感じさせません。落款に「九十叟 鉄斎」と署し、90歳の新年を迎える喜びが伝わってくる名品といえます。
扶桑神境図 大正13年(89歳)
鉄斎―山水に遊ぶ―(仮)
会場 鉄斎美術館別館 史料館
会期 前期 1月26日(木)~3月14日(火)
後期 3月23日(木)~5月2日(火)
開館時間 9時30分~16時30分(無料)
休館日 水曜
*会期・開館時間は変更となる場合があります。
詳しくは美術館ホームページをご覧ください。