南画を継承する鉄斎の画を
宝塚の地で観られるのは奇蹟
中国宋時代に始まった南宗画が日本にもたらされたのは江戸時代で、文人の池大雅や与謝蕪村、谷文晁らによって日本の南画の基礎が築かれ、明治に入り、東京では日本南画会、京都では鉄斎らにより日本南画協会が設立されました。大正期にはその流れを汲む日本南画院が組織され、今に受け継がれています。
多くの先人により「東洋美術の精粋 水墨画」が現代に息づいているといえます。近代最後の文人と評される鉄斎の書画や資料が約2000点も鉄斎美術館に保存されているというのは、南画を描く者にとっては貴重な宝です。宝塚の地でそれらの作品を観ることができるのは奇蹟的ともいえることです。
鉄斎の画は、画の向こうに鉄斎の心が見え、奥には深い示唆があります。
只、造形的に美しいとか、技法が匠であるとかを超越した精神世界が表現されているからでしょう。墨一色で表現する水墨画はモノクロームの世界だからこそより内面が映し出されるともいえます。最晩年に描かれた水墨画『水墨清趣図』は墨の濃淡、暈し、掠れにより見事に内面世界、俗世を離れた理想の生き方が表現され、引き込まれます。
また、慈悲の力によって羅漢に制された虎を描いた70歳代の『慈能制猛図』は迷いのない力強い筆致の濃墨が美しく、鉄斎らしい作品だと思います。
鉄斎の画には絵画というジャンルを越えた特別な世界観が表され、南画の本質を見ることができます。鉄斎は人間として最も大切にすべき精神を画に表した唯一無二の人だっとといえるのはないでしょうか。
旧街道から清荒神清澄寺へ向う参道入口の鳥居前で。
鉄斎が参道を昇龍に見立てた水墨画は晩年、清澄寺に贈られた
最晩年89歳の鉄斎
次回展覧会
蓮月没後150年 鉄斎が敬慕した大田垣蓮月
2025年9月16日~10月26日
*会場は鉄斎美術館別館「史料館」入場無料