清荒神清澄寺を訪ねて シリーズ・富岡鉄斎を語る その一 宝塚日本画協会会長・山市良子さん

清荒神清澄寺を訪ねて シリーズ・富岡鉄斎を語る その一 宝塚日本画協会会長・山市良子さん

 鉄斎美術館本館で5月4日まで開催された「鉄斎の画業七十年―画を以て法を説く―」は、年代ごとに約40点の代表作が展示され、分野に囚われず、流派に拘らず、筆法も様々に描いた鉄斎の画業を辿る貴重な展覧会となりました。  今月号から3回にわたり、「富岡鉄斎を語る」と題し3人の方に登場いただきます。最初は宝塚市在住の日本画家、山市良子さんに鉄斎への思いを語って頂きました。

迷いのない筆遣いが魅力
鉄斎といえば自由闊達な力強い画を思い浮かべますが、若い頃の作品は、線が細く繊細で、60歳以降の大胆な画とはずいぶん違っています。恐らく若い頃は摸写などを中心に技法や構図を学び、また歌人・大田垣蓮月の学僕として蓮月の精神にも大きな影響を受け、人として、画家としての素地を形成する時代だったのではないでしょうか。
ピカソも若い頃は、繊細な具象を描いていました。時代を経て自身の表現、「ゲルニカ」や「泣く女」などキュビズムに至るわけですが、長寿で多作だったという事も含め鉄斎との共通点を感じます。
久しぶりに開館した鉄斎美術館での展覧会を鑑賞し、改めて70歳以降の作品の線の力強さに圧倒されました。
70歳に描いた『松芝剛勁図』は見ごたえのある大きな掛幅で、「松は天に至るも屈(まが)らず」という賛の通り松がまっすぐに力強く伸びるさまを迷うことなく一気呵成に描いたのでしょう。見入ってしまいました。
私が鉄斎作品のなかでも惹かれるのは人物表現の巧みさ。人物一人ひとりの表情が生き生きしていて実に楽しいです。
大津絵が好きだったという鉄斎が77歳で描いた大津絵風の『擬土佐又平筆法遊戯人物図』にみる人物は、武将を筆頭に瓢箪ナマズや奴などがユーモラスに描かれていて魅力的です。晩年も枯れることはなく、若々しい筆致なのは、鉄斎が若い頃から興味あるもの全てを受け入れ、熟成させ自分のものとして、画を通して体現してきたからではないでしょうか。
描き続けることが自分を高めることになる、と信じ画を描いてきましたが、89歳まで筆を執り、しかも老いを感じさせない画を描き続けた鉄斎に接すると改めて鉄斎の凄さを感じるとともに描き続けることの意義を感じます。

山市良子 
一般社団法人・創彩会代表、日本美術家連盟会員、宝塚日本画協会会長、宝塚市展審査員を務める。一枝会を主宰し、指導に当たる。2025年5月宝塚市立文化芸術センターにて第39回日本画協会展開催



5月4日まで開催されていた鉄斎美術館本館展覧会場にて『松芝剛勁図』 『擬土佐又平筆法遊戯人物図』をバックに


自宅にある書庫の前で
85歳頃の鉄斎

清荒神清澄寺を訪ねて シリーズ・富岡鉄斎を語る その一 宝塚日本画協会会長・山市良子さん

次回展覧会 
蓮月没後150年 鉄斎が敬慕した大田垣蓮月
2025年9月16日~10月26日
*会場は鉄斎美術館別館「史料館」入場無料

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