桃の節句が過ぎ、境内に春の暖かさがが感じられる清荒神清澄寺。鉄斎美術館別館史料館では「鉄斎―山水に遊ぶ―」後期展が、3月23日から開催されます。近代最後の文人といわれる鉄斎は山水画を多く描き、中でも理想郷を画題とした仙境図はよく知られるところです。清荒神参道に陶芸の工房を構える陶芸家・香川清美さんと前期展示を鑑賞、鉄斎の胸中に触れました。
知れば知るほどに興味が湧く鉄斎の画
清荒神の参道に陶芸工房を持っているので、鉄斎美術館で画を目にする機会は度々ありました。別館の史料館は初めてでしたが、間近でじっくりと鑑賞することができ、画に込められている故事や逸話を知ることで、画を観る意識が変わり興味が掻き立てられます。
鉄斎は「まず讃を読んでほしい」と語っていますが、展示作品には解説文と讃の訓読・大意も紹介されているので是非讃を読んでみてほしいですね。
会場を入ると色彩豊かな仙境図が目に入ってきます。中国の文人が理想とした不老長寿の仙人が棲む仙境は、鉄斎にとっても理想郷だったのでしょう。
現実には存在しない、胸中に描かれた風景に心を遊ばせる鉄斎の境地に少し触れることができたような気がします。
杖を突いて橋を渡る人物の衣服の朱色が印象的な「茂松清泉図」は作家の司馬遼太郎が名品と評し、展示のリクエストがあった作品だと聞きましたが、仙境図は「武陵桃源図」や「扶桑神境図」などもドローンで撮影したような鳥瞰図的な構図に驚かされます。
私が圧倒されたのは、八十八歳の時の作品
「瀛洲僊境図」。金砂粉を散らした紙本に緑青で大胆に描かれていて洋画のような色のイメージが脳裏に焼きついています。
また、書家の野中吟雪が鉄斎の書について書いた「仙境の書」の中で鉄斎八十六歳の書「須耐煩」が紹介されていて、これを目にした時、この言葉を書き遺してくれた鉄斎に感謝しました。煩わしさに耐えてこそ自分らしい作品が創作できるのだということ、それを楽しむべし、と言われているようで励まされます。
自由奔放に筆を走らせた鉄斎の作品を観ていると、耐えつつも自分の世界に遊ぶ作品を創る勇気が湧いてきて、力づけられます。
仙境図の中に鉄斎が仙人となって存在して
いるような気がしてきました。
会期 前期 ~3月14日(火) 後期 3月23日(木)~5月2日(火)
開館時間 9時30分~16時30分(無料)
休館日 水曜 *会期・開館時間は変更となる場合があります。
詳しくは美術館ホームページをご覧ください。