そろそろ、木々が色づき始めた清荒神の境内。大銀杏の今年の色づきはどうなるのか、と黄金色に染まる光景を想像しながら、その日が待ち遠しくもあります。 鉄斎美術館別館史料館では、「鉄斎 歴訪の旅」後期展が11月10日から12月20日まで 開催されています。清荒神に拠点を持つ建築家・奥田達郎氏と作品を鑑賞、鉄斎の作品の中に、現代への貴重なメッセージを見つけました。
鉄斎の画には情報が詰め込まれている
これまでも鉄斎作品を観る機会はありましたが、間近でじっくり観ると多くの気づきがありました。鉄斎は実際に見聞した土地の風景を描いていても、単なる写実ではなく、自身が多くの資料から得た情報や他の画家の画から得た情報も盛り込まれ、オリジナルな作品になっている。研究者的な魅力を感じます。
僕が勉強をしてきた文化人類学では、個々の文化を知るためには、その根本を突き詰めることが重要なんです。古代文明や民族文化に影響を受けている著名な芸術家も多いです。
鉄斎の画にも必ず古典や故事にちなんだストーリーが隠されていて、それを知ると真の面白みがわかります。でも、それには観る側の資質も問われることになりますが、今の若者は、溢れる情報の中から、自分が得たい情報だけをキャッチして価値観を共有する者がつながっていっています。アーティストにしても画商を介するのではなく、ネット上で作品を公開してクライアントと直接つながっている。お金や権威を求めるのではなく、自分が好きなことを最優先して生きる心地よい生き方に変わってきているんじゃないでしょうか。
まさに鉄斎の生き方ではないか、と気づかされました。
鉄斎は依頼されて描いた画も多いようですが、依頼者の教養にふさわしい画を描いているのは、今でいうクライアントワークができる人だったと想像します。
座右の銘「万巻に書を読み、万里の路を行く」によって得た膨大な情報をインプットし、画にアウトプットしたのが、鉄斎だと思うと、今こそ鉄斎が注目される時だと強く思います。
視覚情報以外の情報を鉄斎の画から得るのも楽しみになります。
会期 後期 11月10日(木)~12月20日(火)
開館時間 9時30分~16時30分(無料)
休館日 水曜
*会期・開館時間は変更となる場合があります。
詳しくは美術館ホームページをご覧ください。
【プロフィール】
奥田 達郎
1987年生まれ。学部生時代に文化人類学を学び、地域の風土、文化、人の営みの多様性に感銘を受けるが、学問と生業の乖離に疑問を感じたことをきっかけに、建築設計の道を志す。居場所を育てる建築家。奥田達郎建築舎/設計事務所 主宰。