さわやかな風とともに秋の気配を感じる清荒神清澄寺。鉄斎美術館では芸術の秋にふさわしい展覧会「鉄斎―文人多癖―」が開催中です。日本最後の文人と称される近代文人画の巨匠・富岡鉄斎は東坡癖ともいわれ、中国宋の文人・蘇東坡に傾倒、東坡を題材に多くの画を遺し、東坡と同じ日に生まれた事を喜び、「東坡同日生」の印を愛用したことも知られています。他にも多くの「癖」を持つ鉄斎のユニークな一面を画や蒐集物を通して紹介しています。
中国に端を発する文人と言われる芸術家は書画以外に多くの嗜みを持ち、今でいうマニア、オタクの一面を持っていました。それは「癖」といわれ、特定の嗜好物に対する異常な執着、偏愛を表します。有名なのは中国の書家・王羲之の鵞癖、陶淵明の菊癖、李白の酒癖、陸羽の茶癖、蘇東坡の談鬼癖などですが、若い頃から中国の文人世界に憧れていた鉄斎もまた、多癖の士として知られています。書癖・考証癖・煙霞癖(旅行)・茶癖・印癖・墨癖・東坡癖・富士癖、等々。
文人として生きた鉄斎の人生にとって欠くことのできないのが「癖」であり、中でも学問は自らを娯しませる第一の「癖」だったといえるでしょう。
展覧会では中国の文人や日本の畸人たちの非凡な精神に学び、のめり込んだ鉄斎の「癖好」を多彩な作品を通して観ることができます。前期展では、蘇東坡を題材にした《東坡談図》、宋末元初の画僧・牧谿の画法に倣ったとする《漁邨暮雨図》などが展示されます。また、後期展には、今回初公開となる《鎮国山図》、特別展示として代表作の《富士山図》屏風なども登場します。