真言密教を広く伝えた宗祖弘法大師空海の生誕を祝い、6月15日には弘法大師降誕会が執り行われる清荒神清澄寺。その境内に佇む史料館では山内の茶室「春光庵」の茶道具を観ることができる「巧みの茶道具」展が28日まで開催されています。
茶室「春光庵」は清荒神清澄寺山内にあり、躙り口の上には富岡鉄斎が揮毫した扁額が掛けられています。37世法主光浄和上は「宗美一体」の理念のもと鉄斎の作品を蒐集、晩年の鉄斎と親交を持ち、翁を招くため大正12年に茶室を創建、鉄斎夫人「春子」と「光浄」から一字ずつをとって「春光庵」と命名されました。鉄斎から光浄和上に宛てられた最晩年の貴重な自筆の手紙も遺されています。茶室は五十数年後に改修されましたが、扁額は当時のままです。
展示室南面には桃山時代から江戸初期にかけて焼かれた「古伊賀水指」が存在感を際立たせています。ビードロ釉という自然釉により、美しい緑色を浮かび上がらせています。かすかに緑を帯びた「信楽水指」も素朴ながら風格を感じさせ、ともに利休の「侘茶」の世界へと誘ってくれる作品です。
江戸中期には中国で流行した多彩で華麗な「金襴手」や「交趾」などが人気となりますが、その後、永楽家などが日本の茶道に馴染む茶道具とし定着させました。展示室の中でひと際華やかな、永楽善五郎の「赤瓷金襴手菊茶碗・仁清若松茶碗」一双はその代表的な作品ということができるでしょう。
北面を飾る千家十職の一人、9代楽了入の「楽名物茶碗写七種」にも惹きつけられます。質素な中に気品を帯びた朱と黒の七つの茶碗が揃い、大いに見ごたえがあります。また、四季に因んだ書が記された表千家11代家元・碌々斎「四季茶杓」など趣ある名品も見逃せません。
茶道を嗜む方はもちろん、そうでない方も日本の伝統文化に触れ、「侘茶」の世界を史料館で身近に味わってみてはいかがでしょう。