宝の塚からTAKARAZUKAへ
定 価 1600円(税別)
発行日 2021年8月18日
著 者 倉橋 滋樹
発行者 岡 達也
発行所 あさひ高速印刷出版部
四六判 184ページ ソフトカバー
ソフトカバーの表紙は武庫川の青、連山の緑と阪急電車のマルーンカラーが配され、ビジュアルには「宝塚婦人博覧会少女大会」と「箕面有馬電気軌道・宝塚駅」、裏は「新温泉内・パラダイス外観」の絵葉書があしらわれ、郷愁を誘う。
表紙を開くと目次に続いて序章となり、最初に「宝塚市の誕生は宝塚市開発の父と呼ばれている小林一三翁の力によるところが大きい」と記されている。
倉橋氏は明治40年から大正5年までの新聞記事を中心に、箕面有馬電気軌道敷設に至る経緯と経営戦略、その紆余曲折を丁寧に読み解き、宝塚市の成り立ちとともに宝塚歌劇繁栄までの道のりを紹介している。
第一章は「宝塚の歴史」。明治17年の温泉発見からの歴史を紐解き、川辺馬車鉄道から摂津鉄道、そして阪鶴鉄道に引き継がれ、明治30年に宝塚駅が誕生した。小林一三の登場により箕面有馬電気鉄道(社名変更前)が明治40年に設立、そこから3年後の開業までの経緯が新聞記事や新聞広告をもとに克明に記されている。第二章「新温泉誕生」第三章「今に続くTAKARAZUKA始まる」と続き、鉄道とともに一大エンターテイメントとして発展した宝塚歌劇の草創期についても詳しい。
少女歌劇初演の舞台となった新温泉の室内プールは、失敗から舞台に転用されたといわれているが、倉橋氏は元々舞台に転用できるよう設計されていたと述べている。また、宝塚での少女歌劇公演以前に大阪で女学世界愛読者大会(少女大会)があったこと、宝塚歌劇第1回公演前年に神戸でレビューが上演されていたこと、にも触れていて興味深い。
終章は「宝塚を中心とする事業展開を積極的に図っていった小林一三は大正・昭和を代表する稀有な経営者として、また文化プランナーとして語り継がれるであろう」と締め括られている。
宝塚市を知る上で貴重な資料にもなり得る一冊といえるだろう。