銀杏や楓の紅葉狩りを楽しみながら、芸術の秋を満喫することができる清荒神清澄寺。 境内の史料館では9周年記念企画「楽家と永楽家−相伝の芸術−」が開催され、鉄斎美術館では鉄斎の青緑山水を紹介する展覧会(後期)が11月26日まで開催されています。 フランスに長く滞在し、フランスの街角やセーヌ河の風景を多く描いている画家・黒田ひろしさんと青緑山水画をじっくり鑑賞、洋画家の目から鉄斎の色彩の魅力に迫りました。
89歳まで長生きした鉄斎は晩年の作品ほど評価が高く、画家の中でも稀有な存在です。その逆で初期の作品の評価が高いフランスの画家・ユトリロは晩年、自身の若い頃の作品を写していたともいわれています。鉄斎は老いても好奇心を失わず、技量も衰えることはなかったのだろうと想像します。
60歳以降の作品は若い頃より躍動的で、青緑山水の画にも人知を超越した自然が生み出すエネルギー、目に見えない空気が表現されているように思えます。
西洋の写実絵画とは全く違いますね。
「蓬莱僊境図」(前期展示)を始め、青緑山水は緑のグラデーションが美しいのも特徴ではないでしょうか。
代表作といわれる「青緑山水図」屏風(前期展示)はパリのオランジュリー美術館でモネの睡蓮を見た時のような感動を覚えました。山々の緑の美しい濃淡、輝いているような苔の緑青に加え、イーグルアイで捉えた右隻と平遠から見た左隻が違和感なく一対の景色になっている不思議さ。鉄斎の頭の中では正確に距離が計算されているから描ける、といえます。離れてみるとそれがよくわかります。近くでは荒い筆遣いのように見えた画が、引いてみると、山から河に落ちる滝や崖が正確な距離感で描かれリアルに見えてきます。
後期には平遠から見た富士山全景とイーグルアイで捉えた火口が対になっている六曲一双屏風「富士山図」が展示されるので是非観てみたいです。
鉄斎は70歳代から80歳半ばにかけて多くの青緑山水を描いたと、出品目録に解説が載っていますが、画風は常に変化していて、一人でこれほど多くの画法を極めた画家も少ないのではないかという気がします。
鉄斎の作品はバックグラウンドを知って、本を読むように画を見るといいですね。
▲黒田ひろし・1975年川西生まれ。2003年多摩美術大学卒業、ロンドン、ベルギーでデザインを学んだ後、渡仏。2010年から活動の中心を絵画に移す。2012年神戸にて日本初個展、16年あべのハルカスで「黒田ひろしパリ油彩画展」開催。13年からギャラリー六軒茶屋で定期的に個展。11月15日~20日、12月8日~13日同ギャラリーにて個展