月組宝塚大劇場公演は、1996年の初演以来、美しい旋律と独創的なストーリーで多くの観客を魅了し10回目の上演となるミュージカル『エリザベート―愛と死の輪舞―』を10月1日まで。 天性の身体能力と華やかさを生かして舞台で輝く暁千星、最後の新人公演では新たに挑む男役で新たな一面を魅せる。
1992年にウィーンで誕生したミュージカル『エリザベート』が宝塚歌劇団で初めて上演されたのが1996年。それ以来、上演回数は1000回を越え、観客動員数240万人を記録する人気ミュージカル『エリザベート―愛と死の輪舞―』が、現在、宝塚大劇場で個性豊かな月組により10月1日まで上演中だ。新人公演『エリザベート』で主役トートを演じるのが第98期生の暁千星さん。
2012年に首席で入団後、『明日への指針』『1789―バスティーユの恋人たち―』『NOBUNAGA︿信長﹀―下天の夢―』などに続いて4度目の新人公演主演に挑む。
「新人公演はたくさんの経験ができる貴重な機会です。新人公演でなければ勉強できないことがあり、私にとって最後の新人公演でこの世のものではない黄泉の帝王トートに挑戦させていただけるのがありがたく、とてもうれしいです。人間ではないトートの役づくりには想像以上のむずかしさを感じていますが、登場人物の中で1番人間らしい感情を持っているのではないかと思います。エリザベートに惹かれる思いの強さや、嫉妬の激しさなど、ストレートで驚かされます」
バレリーナを目指してレッスンに励んでいた暁千星さんが宝塚歌劇団の存在を知るキッカケになったのが『エリザベート』のポスターだった。トート役のトップスターの顔を大きく配したポスターを前に「カッコいいなぁ」とつぶやいて、宝塚音楽学校受験の道に踏み出したのである。
「そのポスターをスケジュール帳の表紙に貼り、ずっとそばにおいていました。その後、『エリザベート』のDVDをいくつか観たのですが、巨大な鏡のセットで舞台の奥行きや広がりを演出するスケールの大きさにも興味をもちました」
本公演ではオーストリア=ハンガリー帝国の皇太子ルドルフを役がわりで演じている暁千星さん。ルドルフの繊細さや母親の愛を求める思いの強さなどを色濃く演じる暁千星さんの、美しい悲運の皇太子ルドルフ像に、観客の熱い視線が集まっている。
暁千星さんの新人公演での活躍を振り返ると、研3、研4、研5と立て続けに主演を果たしたあと、研6で『All for One~ダルタニアンと太陽王~』のマザラン枢機卿、『カンパニー―努力(レッスン)、情熱(パッション)、そして仲間たち(カンパニー)』の脇坂英一という、舞台経験豊富な上級生が演じる役に挑戦している。
「全体を見渡す、どっしりと落ち着いた役を経験することで、立っているだけで存在感を出す勉強ができたと思います」
その脇坂役が、今夏のシアター・ドラマシティ公演『THE LAST PARTY~S.Fitzgerald’s last day~フィッツジェラルド最後の一日』のアーネスト・ヘミングウェイ役につながった。
「これからは、私がしてもらったように下級生に余計な緊張を与えずに教えてあげられる上級生になりたいなと思います。これまでも普段からそういう雰囲気で接してきたつもりですが、共に汗だくになって切磋琢磨する新人公演を卒業しても距離が離れてしまわないように心がけたいです」
バネの利いた肢体を自在に躍動させて踊る暁千星さんのダンスは、清冽な流れのように清々しく魅力的だ。「激しく踊って汗をかくのは最高に気持ちがいいのですが、トートのダンスは少し力を抜くくらいがカッコいいと思います。“最後のダンス”は大きな見せ場になりますので、暁千星が新たに挑む男役のダンスを見ていただきたいです」
東京宝塚劇場での新人公演は11月8日。暁千星さんがトート役に賭ける思いの強さが、観る者の五感を覚醒させ感涙の雨を降らせることだろう。
2012年『華やかなりし日々』で初舞台。翌年月組に配属。14年『明日への指針』新人公演で初主演。15年バウ・ワークショップ『A-EN』<ARI VERSION>でバウホール初主演。17年『Arkadia』でバウ単独初主演。
出身/広島県 愛称・ARI