トップページ > 2008年11月号 >フェアリーインタビュー

宙組 早霧 せいな

11月3日まで上演中の宝塚大劇場宙組公演は、アニメーションピクチャーの世界での成功を目指して前向きに生きる主人公の姿を描いたオリジナルミュージカル『Paradise Prince』と、グランド・レビュー『ダンシング・フォー・ユー』の2本立て。 バウホール開場30周年バウ・ワークショップシリーズのラストを飾る『殉情』で主演を果たした早霧せいな、新人公演を卒業し多彩な魅力を開花させている。

新人時代に悩む力をつける

「新人時代に、悩みや苦しみをたくさん味わい、あがき、がんばる過程がすごく大事なんです」と、宙組・男役スター早霧せいなさんは話し始める。

「毎公演1回、入団7年目までの新人だけで本公演どおりに演じる新人公演があります。

上級生が演じていらっしゃる役をさせていただくので、全員が自分の技量よりも大きい役に挑戦することになります。舞台で見る上級生のすばらしい演技と、稽古場の鏡で見る自分の演技。そのギャップに悩みながら、本番の日が容赦なく近づいてくる。2500人のお客様の前で恥をかくのは自分!果たしてこれでいいのだろうかと、ものすごく悩みます。でも吸収する力がいっぱいある初々しい新人時代に、自分自身を直視し、しっかりと悩む経験ができることは本当にありがたいこと。新公を卒業してよくわかりました。これからも新人公演はずっと続けていただきたいと思います」

2001年4月、宙組公演『ベルサイユのばら2001』で初舞台を踏んだ早霧せいなさんが、初めて新人公演の主役に抜擢されたのは2006年3月、『NEVER SAY GOODBYE』だった。座付き作家・小池修一郎の台本と作詞、フランク・ワイルドホーンが全曲を書き下ろした世界に一つのタカラヅカ・オリジナル・ミュージカル。しかもトップ和央ようかの退団と初舞台生デビューという、話題満載の特別な一本立て大作だ。「研6になったばかりで新公の主役がいただけるとは思っていなかったので驚きました。ちゃんと責任を持って務めなければと、プレッシャーも相当あったのですが、主演スターの魅力を1番身近で勉強できる、またとないチャンス、と必死でお稽古しました。この経験のおかげで、回りの支えがあればこそ舞台のセンターに立つことができるのだという感謝の気持ちをもてたし、これを毎日務める主演男役さんはすごいと改めて感じました。もっと組を支えられる人材になりたいと、自分のやるべきことが実感としてわかったことは大きな収穫でした」

二度目の新人公演主演は同年、『維新回天・竜馬伝!』。初舞台からずっと宙組で活躍している早霧せいなさんにとって初めての日本物だった。が、早霧せいなさんの竜馬は、期待どおり観客の熱い視線を独占した。「壁にぶつかって、役を消化しきれないときもありますが、絶対に自分が楽しまないとお客様には伝わらないということを、常に意識してやっています」

そんな、自分自身が楽しめるところまで徹底して悩み抜くひたむきさは、早霧せいなさんの身上である。研8になった今夏、宝塚バウホール初主演公演『殉情』で、盲目の春琴に無償の愛を捧げる佐助を演じた。原作は谷崎潤一郎の「春琴抄」。葛藤を繰り返す愛の世界で、早霧せいなさんが見せたのは、献身的に尽くすニンの役の魅力だった。

「佐助にしかできない包容力と、日本物ならではの身のこなしで男役が演じられたのは、貴重な経験でした。1幕と2幕で佐助の成長振りがわかり、役者として本当にいい役に巡り会えたなと感謝しています」
 
現在、宙組宝塚大劇場公演『Paradise Prince』で早霧せいなさんが演じているのは、主演の大和悠河扮する天才アーティストのスチュアートが人生を再スタートする決意で働き始めるアニメーション会社の社員、ピーター。ピーターはスチュアートに触発され、一度は挫折したアニメーションづくりの夢を取り戻していく。

芝居のあとにレビューの幕が上がる。グランド・レビュー『ダンシング・フォー・ユー』のフィナーレで完璧なダルマ衣装を着た早霧せいなさんのダンスは是非、観ておきたい。05年『ネオ・ヴォヤージュ』のスター・シャルマントでもダルマ姿を披露したが、脚はカラータイツで隠されていた。今回のエイトシャルマンは、大人の麗しさが倍増した早霧せいなさんが、下級生の男役7人を率いて颯爽と踊るのだ。世界に二つとない宝塚の美しさを堪能させてくれる魅惑のシーンである。

「下級生の頃、自分が目指していたのはキザで男っぽい男役でした。でも周りからはフェアリータイプと言われ、ギャップに悩んだことがあります。今はイメージを固めずに、いろんな男役ができるようになれば最高ですね。いい意味でイメージを裏切っていきたい。早霧せいなという男役を確立していく時期に入ったので、個性を大切にしつつ、一方でどんどん新しい自分を発見する楽しみを見つけていきたいと思います」

個性は自分なりの負荷をかけ続けて生み出す、しなやかな自分。早霧せいなさんは、男役という幻想をどこまでも楽しませてくれる夢人である。

早霧 せいなさん

2001年『ベルサイユのばら2001』で初舞台、宙組に配属。06年『NEVER SAY GOODBYEーある愛の軌跡ー』で新人公演初主演。08年『殉情』でバウ・ワークショップ初主演。
長崎県出身/愛称・ちぎ

インタビュアー 名取千里(なとりちさと)
ティーオーエー、現代文化研究会事務局/宝NPOセンター理事主な編著書「タカラヅカ・フェニックス」(あさひ高速印刷)「タカラヅカ・ベルエポックI・II」(神戸新聞総合出版センター)/「仕事も結婚も」 (恒友出版)
宝塚の情報誌ウィズたからづか

ウィズたからづかの最新コンテンツ