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専科 萬 あきら

11月13日から12月11日まで上演中の宙組・宝塚大劇場は新トップコンビのお披露目公演、話題のミュージカル『カサブランカ』。アメリカ映画ラブストーリーの最高傑作「カサブランカ」の世界初のミュージカルに宝塚歌劇団が挑戦する。 舞台を引き締める演技派としても、ダンサーとしても長年活躍した萬あきらがこの舞台を最後に退団する。

宝塚、最後の挑戦は「カサブランカ」の酒場でさりげなく 「As Time Goes By」を歌うあの黒人ピアニスト

 幅広く、いろんな役を演じてきたが、ベースはずっと二枚目。専科の萬あきらさんは、ミステリアスな大人の男の色香を立ち姿だけで感じさせる稀有な男役だ。今でも鮮明に思い出すのは1993年『グランドホテル』のジゴロ役。若央りさ演じる公爵夫人とのダンス場面に息もできないほどドキドキさせられた。当時、萬あきらさんはダンス専科。その後、2008年『夢の浮橋』での光源氏などを演じ、2010年1月、映画「カサブランカ」を世界で初めてミュージカル化した宝塚歌劇団宙組『カサブランカ』の東京公演を最後に退団することが決まっている。

「『グランドホテル』はニューヨーク公演に参加したときに観ました。いいなと思った役を宝塚歌劇でやれたのは幸せです。今回の『カサブランカ』は改めて映画を見て、ラブロマンス的だけれど人生の深い部分を描いた素敵な作品だと思いました。私はサムという黒人のジャズピアニスト役。実を言うとピアノは苦手。自分にとって大きな課題を、克服する楽しみに変えられるよう、今はがんばるだけ。有名な名曲『As Time Goes By』を歌わせて頂けるのがうれしいです」 言葉の明確さとは別に、萬あきらさんの表情はやわらかい。
「組のダンスリーダーだった頃は、バシッと決めることが必要だったけれど、年齢を重ねる毎にやわらかい心が大事だなと思うようになりました。なるべく、いつも真っ白でいたいなと」

 萬あきらさんは1970年に初舞台を踏んだ第56期生。雪組で10年過ごした後に異動した星組では副組長を務めるなど人望も厚い。「専科で20年。ここ2、3年は幸せなことに、さまざまな役を与えていただき必死でした」 

 今夏の宙組博多座公演『大江山花伝』では千年杉という鬼を演じ、「よっぱらいの好々爺みたいな役で、初めて真っ白い髭をつけて、うれしかった」と、ほっこり。

 10年ぶりにディナーショーも開催し、男役40年の集大成、と大絶賛された。
「自分としては初めての作詞や新曲にもチャレンジしたので、出来上がるまでは結構辛い時期もありましたが、大丈夫、できる、とガッツで乗り切りました。あとは出てくれた下級生3人がしっかりやってくれたおかげですね。シンプルな言葉ですが、幸せだなと思いながら辞められることに感謝しています」

 とはいっても、さまざまな節目があったはず。最も苦しかったのは、「汗を流し、自分を解放して踊るのが大好きでしようがなかったから、専科入りして、ローテーションの関係もあったんだけど、ショーに出る機会がほとんどなくなってしまったこと。いつもレッスンしているのだけれど、実際に舞台で踊ることができないのは、辛かったですね。ダンスは下級生に譲って行かなければいけないとは思うけれど、その年齢にしかできない、味で踊れる場面もあったらいいなと思っていました。でもダンスで体を鍛えていたおかげで、クリアーできたものが一杯ありました。自分がやってみたいことを続けていると、いつかきっと自分のためになる。体力は人生において必要なものですから、今となっては良かったと思えることばかりです」

 宝塚歌劇100周年への期待も大きい。「こんなに輝いた、豪華な舞台は世界中どこにもないので、いつまでも華やかに繁栄していってほしいですね。下級生でも実力のある子がたくさんいますから、みんな、舞台を楽しみながら、プロとして務めていってくれたら、宝塚歌劇は永遠に不滅です」

 男役・萬あきらが目指してきたベースは、舞台人としてのプロ意識だという。「何が来てもいいようにしてきたつもり。常に舞台に向かって自分をONにし続ける緊張感が、宝塚の美しさにつながっているのです」

 大好きな宝塚への熱い思いに羽根をつけて、萬あきらさんは次の世界に飛び立つ。「さりげなく去りたい」という萬あきらさん。「ケイさん、それはムリ」と下級生たち。賑やかな退団セレモニーが待っている。

萬 あきらさん

1970年『四季の踊り絵巻』で初舞台、翌年雪組に配属。79年星組に組替え。86年星組副組長に就任。90年専科へ。01年「猛き黄金の国」で吉田東洋、08年『夢の浮橋』で光源氏を演じ好評を得る。
静岡県出身/愛称・ケイ

インタビュアー 名取千里(なとりちさと)
ティーオーエー、現代文化研究会事務局/宝NPOセンター理事主な編著書「タカラヅカ・フェニックス」(あさひ高速印刷)「タカラヅカ・ベルエポックI・II」(神戸新聞総合出版センター)/「仕事も結婚も」 (恒友出版)
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