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花組 壮 一帆

3月12日から4月12日まで上演中の花組宝塚大劇場公演は、秦の始皇帝死後の覇権を争った項羽と劉邦の戦いを軸に、項羽と虞美人との悲恋をドラマティックに描いた、ミュージカル『虞美人-新たなる伝説-』。 颯爽とした二枚目ぶりに磨きがかかる壮一帆、多彩な役を着実に演じて15年目を迎え、劉邦に挑む。

劉邦の新しい魅力を存分に見せる

 話題作『相棒』の神戸尊を1月22日に演じ終えた花組男役スターの壮一帆さんが、1月下旬には、宝塚大劇場公演『虞美人』の稽古に入った。長与善朗原作の戯曲「項羽と劉邦」をもとに白井鐵造が脚本・演出を担当した『虞美人』は1951年に初演。宝塚歌劇団初の一本立てミュージカルであり、項羽役の春日野八千代らメインキャストが本物の馬に乗って登場したことでも有名なこの作品は、宝塚ブームを起こし、3か月連続ロングランを達成して相次ぐスターの退団による危機を救ったと言われている。1955年にはアメリカ軍に接収されていた東京宝塚劇場の再開場第1作として上演され、74年にも宝塚歌劇60周年記念公演として幕を上げた大作だ。96周年を迎えた今年、座付演出家・木村信司氏による21世紀版『虞美人』は、脚本・演出・音楽・装置・衣装すべてを刷新する。

 劉邦役を演じる壮一帆さんに、意気込みをお聞きした。

 「初演の方々が築き上げられた雰囲気や勢いを失うことなく、更に新しいものとして我々がしっかりとお見せできるように、ちょっとした緊張感をもってお稽古に臨みました。今回の台本は木村先生が史実に忠実に書かれていて、劉邦という人物の、正直に弱音を吐いてしまう一面や、人徳はあるけれども策士ではなく名将軍たちに恵まれてようやく天下をとれた男の本音が描かれています。なぜ項羽と覇権を争ったのか、どうして中国では劉邦の方が人気があるのか、ずっと考え続けています。それがわからないと、お客様に納得して頂けません。つかみどころのない人物というのが、今回、劉邦を通して自分が表現したいキャラクター。単純には終わらせたくないと思っています」

 全てに果敢に立ち向かっていく項羽に対して、劉邦はいろんなものを吸い取ってしまうブラックホールのような存在だと言う。引出しが多くなければ演じ切れない難役だ。
 「男役15年目ですが、これまでも、あるだけの引出しをさらけ出して演じるしかなかった中で、昨年は『太王四神記』のプルキル役という、やりたいと思っていた悪役にめぐり合い、楽しむことができました。今後の新しい壮一帆を見ていただく一つの切っ掛けになった役です」

 2009年は、そのプルキルに始まり、次々と多彩な役柄を演じて見事に舞台を盛り上げた。5月、3度目のバウホール主演『オグリ!』。7月、梅田芸術劇場メインホール公演『ME AND MY GIRL』の役がわりジョン卿と初の女役ジャッキー。9・10月、宝塚大劇場と東京宝塚劇場公演『外伝ベルサイユのばら-アンドレ編-』のアラン。12・1月、シアター・ドラマシティ公演『相棒』の神戸尊。トップスターを一番近くで支え、共に輝きを増す男役スターの存在感を見せつけた1年だった。

 「様々なカラーの役に出会い、挑戦できたことがありがたかったし、全力で取り組んだという手ごたえがありました。『相棒』では神戸尊のキャラクターをつかむのに時間がかかりましたね。千秋楽の前日に俳優の及川光博さんが観劇されて、テレビではこういう演出なんだよと。いやあ、もっと早く聞きたかったですね」と爽やかに笑う。

 壮一帆さんの2010年の目標は、「この学年だからこそ原点に戻り、頭で考えすぎずに、感覚的な部分で舞台を楽しんでいけたらいいなと、思っています。これまで以上に、新しいものをどんどん見つけていきたい」

 『虞美人』の初日は3月12日。壮一帆さんにとって中国歴史物は2001年『愛 燃える』以来。新人公演初主役の夫差は、ターニングポイントになった。劉邦役は、壮一帆さんに、さらに大きな幸運をもたらすにちがいない。

壮 一帆さん

1996年『CAN-CAN』で初舞台、花組に配属。2001年雪組に組替えとなり、『愛 燃える』新人公演初主演。02年バウホール公演『ホップ スコッチ』で立樹遥、音月桂と共にバウ初主演。06年花組へ組替え。09年バウホール公演「オグリ!」主演
兵庫県出身/愛称・So

インタビュアー 名取千里(なとりちさと)
ティーオーエー、現代文化研究会事務局/宝NPOセンター理事主な編著書「タカラヅカ・フェニックス」(あさひ高速印刷)「タカラヅカ・ベルエポックI・II」(神戸新聞総合出版センター)/「仕事も結婚も」 (恒友出版)
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