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星組 立樹 遥

8月4日まで上演中の宝塚大劇場星組公演は、ブロードウェイで大ヒットしたミュージカルに宝塚歌劇ならではの魅力をくわえた『THE SCARLET PIMPERNEL』。明るい笑顔と長身のスタイルが舞台に映える立樹遥。フランス革命で捕らえられた貴族たちを救い出すイギリスの秘密結社「スカーレット・ピンパーネル」、その首領パーシーのもとで青年貴族たちをまとめる兄貴的存在デュハーストを演じ、充実の星組をひっぱる。

青年貴族をまとめる正義の人デュハースト役を 凛々しく熱く、ロマンチックに

宝塚スターの輝きは、年月をかけた自己練磨の賜物だ。一瞬できれいになるとか、お金持ちになれるなどというのは嘘である。仮に一瞬で得たものがあったとしても一瞬のうちに失い、決して幸せをもたらすことはない。

宝塚スターは才能や運に頼らず、鮮明な目標を持って日々邁進する。弱さから目を逸らさず、自身を鍛えぬく強さを手にして、内部から輝き出すのである。

「くさるのは簡単です。でも卑屈になってナイーブにネガティブになっても何も得るものはない。だったら、がんばって自分の足で一歩踏み出そうと思いませんか。もちろん苦しみの経験があるから、プラスにもっていける。道は一つではないと思うので、いろいろ見てみよう、やってみようと思いますね」

初舞台から16年目。星組の立樹遥さんは今春、スタンダール原作『赤と黒』のレナール役で大阪、東京、名古屋と1ヶ月間の公演を終えた。舞台映えする華やかな容姿と充実した演技力が、作品に与えた功績は大きい。

「一つの道しか見えないのは、目先のことにとらわれているから。執着心は自分をつぶしてしまうことも。誰でも悩みますよ。でも苦しむからこそ人の苦しみがわかるようになる。落ち込んでいる下級生を見ると、声をかけずにいられません。これまで私なりにいろんな壁を乗り越えてきた経験を話してあげたい。でも私にはわからない悩みを持っている人もいる。もし私に同じ経験があれば、プラスもう一つ二つ、かけられる言葉があるのになと思います。人間を見るのが好きですね。元気のない人は放っておけない」

個人的に正義大好き人間、と朗らかに笑う。

「子どもの頃からゴレンジャーとか、大好きでした」

正義を振りかざす人間と、正義を守る人間。人間の品格は二つのタイプに分かれるが、後者の立樹遥さんは言うまでもなく、頼りがいのある存在だ。

現在、8月4日まで上演中の宝塚大劇場星組公演『THE SCARLET PIMPERNEL』で演じているのが、まさに内なる正義の声を信じて行動するデュハースト役。

「時代はちがうけれども自分の生き方と重なる部分を感じています」

物語の舞台は1794年のフランス。すでに国王ルイ16世とマリー・アントワネットは処刑され、独裁者ロベスピエールによる恐怖政治が続く中、無実の罪で断頭台へ送られるフランス貴族たちを国外へ逃がそうと、イギリス貴族による秘密結社スカーレット・ピンパーネルが活躍する。その首領パーシーのもとで青年貴族をまとめる兄貴的存在がデュハースト。立樹遥さんは凛々しく熱く、時にロマンチックに演じて、陶酔の境地に誘う。

原作はフランス革命100年後に歴史・探偵小説家、バロネス・オルツィによって書かれた小説「THE SCARLET PIMPERNEL」。映画化、テレビドラマ化を経てブロードウェイでミュージカル上演されたのが1997年。日本で初の公演となる宝塚版の潤色・演出を、フランク・ワイルドホーンとの共作『NEVER SAY GOODBYE』で文部科学大臣賞を受賞した小池修一郎氏が担当した。この宝塚版、ワイルドホーンの新曲2曲と未使用だった1曲が加わり、パワーアップしたという贅沢なもの。

「普段はピンパーネルであることを隠すために、いい加減な人間を装ってふざけています。
恋人にも本当のことを言わない。『ここで結婚を申し込まないのは男らしくないかもしれない。でももう少し待ってほしい。ぼくを信じられるなら』という台詞がありますが、ピンパーネルとして命を賭けた戦いが待っているわけです。恋人を愛しているけれどもデュハーストはどうしてもフランス貴族の命を救わなきゃならないという使命感に燃えているんですね」

舞台中央に不気味にそびえるギロチンが恐怖政治の残虐さを重苦しく訴えかける。重厚なテーマを扱いながらも、恋と冒険に満ちたエンターテイメント性の高い舞台なのだ。

「敵の目を欺くため、動物柄の奇抜な衣装を着たり、洗濯女や敵の兵士に変装したり。パーシーの愛する妻マルグリットへの疑惑、フランス公安委員ショーヴランとの駆け引きなど、活劇の面白さがいっぱいです。難しい楽曲をみんな、すごくがんばって歌っているんですよ」

終盤、遂にドーヴァー海峡沿いの町ミクロンの桟橋で、パーシーとショーヴランは対決する。パーシー危うし。そのとき、デュハーストは?

「自分の感情が乏しければ役の感情も乏しくなります。引き出しを増やすことはすごく大事。何も悩まずに生きていたら、薄っぺらな人間になっちゃうんじゃないかな。これからの自分にも、苦しみはあると思う。生きていく限り。でも、乗り越えるでしょう。乗り越えたいですよね、やっぱり。今までも乗り越えてきたのですから」

高らかに響く立樹遥さんの言葉が、窓外の雨上がりの空に吸い込まれていく。2枚目だけでなく3枚目も、屈折した悪役も、やってみたい。今の自分に出せる力の限りを注ぎ込んで、と。

立樹 遥さん

1993年『BROADWAY BOYS』で初舞台、翌年雪組に配属。99年『ノバ・ボサ・ノバ』で新人公演初主演。2002年『ホップスコッチ』で壮一帆、音月桂と共にバウ初主演。03年星組に組替え。06年『フェット・インペリアル』バウ主演。
神奈川県出身/愛称・しい

インタビュアー 名取千里(なとりちさと)
ティーオーエー、現代文化研究会事務局/宝NPOセンター理事主な編著書「タカラヅカ・フェニックス」(あさひ高速印刷)「タカラヅカ・ベルエポックI・II」(神戸新聞総合出版センター)/「仕事も結婚も」 (恒友出版)
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