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宙組 七帆 ひかる

宝塚大劇場宙組公演は9月26日~11月3日まで、アメリカ西海岸ロサンジェルス近郊の街を舞台に、前向きに生きる若者の姿を描いたオリジナルミュージカル『Paradise Prince』と、舞台にかける情熱、思い、愛、夢など熱きエネルギーをダンスナンバーに托しておくるグランド・レビュー「ダンシング・フォー・ユー』の2本立。ナチュラルな笑顔とキレのあるダンスが魅力の七帆ひかる、多彩な役に挑戦し男役10年の節目をむかえる。

イメージを裏切れる舞台人であり続けたい

今年の前半、七帆ひかるさんは対極的ともいえる、異なる色の役を演じている。『黎明の風~侍ジェントルマン 白洲次郎の挑戦~』の打田友彦役と、『雨に唄えば』のロスコー・デクスター役だ。

「打田友彦は、白洲次郎と同郷の後輩で近衛文麿の秘書官、終戦連絡中央事務局(CLO)の職員で、白洲役の轟さんとはほとんど同じ場面でご一緒させていただきました。轟さんのお芝居は毎回、微妙に違って新鮮なんです。芝居はキャッチボールだから、自分も応えないといけませんよね。そばで聞いているだけの台詞のないシーンが最もむずかしく、すごく勉強になりました。打田友彦が静なら、デクスターは動の役です」

ジーン・ケリー主演のミュージカル映画を舞台化した『雨に唄えば』は、無声映画がトーキーに変わる時代の映画関係者の姿をコミカルに描いたミュージカル・コメディ。

「映画監督デクスターは初演の日生劇場で舞台経験豊富な専科さんがなさった役。同じ様にはできませんが、ここは勝負どころだと。お客様を泣かせるより笑わせるほうがむずかしいと言われますが、そのとおりでしたね。笑いを狙いすぎると客席はしらけてしまう。トーキーの時代についていけず苦しんでいる、情熱を持った映画監督という人物をまずしっかりと演じることを心がけました。1番苦労したのが、初めてトーキーで撮るシーンです。フィナーレ以外は踊っていないのに汗だくになりましたね。でも自分がエネルギーを使い切らないとお客様には伝わりません。梅田芸術劇場メインホールの3階のお客様まで届けたいと思うと声はもちろん、身振り手振りも意識して大きくしないと。私にとっては、これほど3枚目の役は初めてで、びっくりしたファンの人たちも多かったと思いますが、周りも個性的な人物ばかり。負けられないと無我夢中でした」

その甲斐あって、メインホール1900人の観客が七帆ひかるさんのデクスターに共感し大いに笑わせられたのだった。

「自分は恵まれていると思うことの一つに、固定したイメージを抱かれないほど、いろんな役をいただいてきたということがあります」

『里見八犬伝』の犬塚信乃、『白昼の稲妻』新人公演の、主人公の敵で野心家ランブルーズ侯爵、『ファントム』新人公演の主役ファントム、『ホテルステラマリス』新人公演の主役でホテル再建の道を探るファイナンス会社のエリート社員ウィリアム、『炎にくちづけを』新人公演の、主人公の恋敵でナルシストのルーナ伯爵、バウホール初主演公演『UNDERSTUDY』の、役者の卵アレック、『維新回天・竜馬伝!』の海援隊副官・陸奥陽之助、『NEVER SLEEP』のエリート調査員マイルズ、『バレンシアの熱い花』の気障な盗賊ドン・ファン・カルデロなど、ざっと思い出しても多彩な顔ぶれが並ぶ。

「ダンスが好きで入ったので、宝塚音楽学校時代の芝居の成績は40人中30数番。入団後も苦手意識があって、自分の不甲斐なさに頭を打ち続けました。感情があっても表現の技術が伴わないとお客様に伝わらない。7年目にようやく、壁があるからこそ成長できるのだということがわかりました」

宝塚音楽学校のガイド本を手にしたのは、幼稚園の頃から習っていたクラシックバレエを職業にする道を断念した直後だった。
「背がのびすぎてしまったんです。ガイド本を読んで、自分でもチャレンジすれば入れるかもしれないと思ったんですね。宝塚では毎日、踊れる。それがうれしかった。でも芝居も歌もできなきゃいけなかったんですよ、当たり前のことですが」

長身揃いの宙組の中でも目立つ175センチ。稽古場の、みんなが見ている中で台詞を言うのが恥ずかしかった、それが私の芝居のスタート、という七帆ひかるさん。入団6年目、本公演とほぼ同じ内容を演じる新人公演で初めて与えられた主役が、世界で演じられてきたオペラ座の怪人ファントム。

「かなりの数の曲を歌うため、ペース配分もわからず、がむしゃらに練習したせいで喉をつぶしてしまった。その後、バウ主演もさせていただき、課題だったアピール度も増してきたねと言っていただけるようになって。今後の目標ですか?七帆ひかるだったら、こういうふうに演じるだろうと想像できちゃうのは悔しい。あ、次はこう来たか、と良い意味でイメージを裏切れる、魅せる舞台人であり続けたいと思います」

9月26日、宝塚大劇場宙組公演『Paradise Prince』『ダンシング・フォー・ユー』の幕が上がる。七帆ひかるさんにとって、男役10年の山を越える節目の舞台だ。

「今の時代、男役10年では通用しないと思います。本公演で念願が叶って初めて銀橋で歌わせていただけることになり、すごくうれしい」

さわやかな笑顔で語る七帆ひかるさんの、夢の指標は決してブレない。

七帆 ひかるさん

1999年『ノバ・ボサ・ノバ』で初舞台、宙組に配属。2004年『ファントム』で新人公演初主演。06年『UNDERSTUDY』でバウホール初主演。茨城県出身/愛称・えりこ

インタビュアー 名取千里(なとりちさと)
ティーオーエー、現代文化研究会事務局/宝NPOセンター理事主な編著書「タカラヅカ・フェニックス」(あさひ高速印刷)「タカラヅカ・ベルエポックI・II」(神戸新聞総合出版センター)/「仕事も結婚も」 (恒友出版)
宝塚の情報誌ウィズたからづか

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