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宙組 蓮水 ゆうや

2010年掉尾を飾る宝塚大劇場宙組公演は、ヘミングウェイの原作、そしてゲーリー・クーパーとイングリッド・バーグマンの映画で知られる名作の舞台化、ミュージカル『誰がために鐘は鳴る』。 しなやかな長い手足でキレのあるダンスを魅せる蓮水ゆうや、ゲリラ役を演じ、命を懸け戦う人間の思いを客席に伝える。

32年ぶりの再演、名作「誰がために鐘は鳴る」にゲリラ役で挑む

アーネスト・ヘミングウェイの長編小説『誰がために鐘は鳴る』を宝塚歌劇団が世界で初めて舞台化したのが32年前。宙組による再演が2010年11月12日、宝塚大劇場で始まった。柴田侑宏氏による初演の脚本・演出に、木村信司氏の新演出が加わった再演版は、新曲も複数あり、すべてのダンスの振付が新しくなっている。初演を観た人には、違いを数える楽しみも大きいだろう。

 『誰がために鐘は鳴る』は、1936年に始まったスペインの内乱を背景に、義勇兵として密命を受け戦場へ赴くアメリカの大学講師ロバートと、最前線の山にこもるゲリラたち、そして谷間の洞窟で出会った少女マリアとの、極限状態における人間模様が描かれている。ゲリラの一人、イグナシオを演じているのが研9の蓮水ゆうやさんだ。
「ゲーリー・クーパーとイングリッド・バーグマンの主演で1943年に映画化され、大ヒットしたそうですが、映画は宝塚版より登場人物は少ないです。鳳蘭さんがロバート・ジョーダンを、遥くららさんがマリアを演じていらっしゃる宝塚初演の舞台をビデオで観て、たくさんの人たちの生死が描かれているドラマ性と先輩がたの演技力に感動しました」

 特に男役は本物の男性に見えるほど男っぽく、包容力もすごかった、という蓮水ゆうやさん。宝塚歌劇の中では異色の作品ながら大好評を博した初演。その大作に、名作映画を世界で初めてミュージカル化した『カサブランカ』で堂々と新トップ披露をし観客を酔わせ続けている宙組の個性溢れるスターたちが挑んでいる。

 「ご存知のようにハッピーエンドではありません。お稽古集合日に初めて本読みした時、椅子に腰掛けて台本を読んでいるだけなのに、胸がつまって目が潤んできました。自分はトップの大空祐飛さんが演じるロバートと一緒に行動するゲリラたちとは別のエル・ソルド隊のゲリラなので、出番は少ないのですが、命を賭けて戦う人間の思いをお客様にお伝えできるように、しっかりと役づくりをしたいと思います」


 蓮水ゆうやさんには忘れられない役がある。研7の新人公演『黎明の風』で演じたマッカーサー役と、宝塚バウホール公演『殉情』の主人公・佐助。マッカーサーでは、黙って立っているだけで相手に有無を言わせない大きな存在感が必要だった。そのために自分は何をすべきか、どんな気持ちでいたらいいのか、蓮水ゆうやさんは大きな壁にぶつかったと言う。佐助を演じた時は、「佐助の役がすごく似合いますね」とファンの人たちに言われたことが意外だった。「普段の自分は、いつもにぎやかに騒いでいるので、明るいのが個性だと思っていました。でも、そう言われてみると、佐助の耐え忍ぶ気持ちが最初からよくわかる自分がいて、無理をせずに佐助になれたんです」

 今年3月『シャングリラ』で演じたクールな悪役・雹も、5月の大劇場公演『TRAFALGAR』で演じた兄の仇を狙うオーレリー・バイロンも、ファンには大好評だった。

 「だから、私はどちらかというと陽より陰の役のほうが似合うのかもしれないですね」

 たしかに、寂しい過去があるとか、癒されない孤独を抱えているとか、そんな男役を演じる蓮水ゆうやさんは、放っておけないような愛おしさを感じさせて魅力的だ。だが一方、9月、コンサート『“R”ising!!』で燃えに燃えた蓮水ゆうやさんは「出演できると分かった時、死ぬほど踊れると思って、ものすごくうれしかった。お稽古が始まるとハードで体力との戦いでしたが」と、笑顔が一気にスターダンサーの華やかさに染まる。6歳から始めたクラシックバレエで鍛えた、しなやかなバネのような長い手足と174センチの長身、熱いハート。『誰がために鐘は鳴る』のプロローグ、イグナシオ役、そして大階段を使った豪華なフィナーレで、蓮水ゆうやさんの魅力のすべてを堪能したい。

蓮水 ゆうやさん

2002年『プラハの春』で初舞台、宙組に配属。08年バウ・ワークショップ『殉情』でバウ初主演。
神奈川県出身/愛称・ちー、ちひろ

インタビュアー 名取千里(なとりちさと)
ティーオーエー、現代文化研究会事務局/宝NPOセンター理事主な編著書「タカラヅカ・フェニックス」(あさひ高速印刷)「タカラヅカ・ベルエポックI・II」(神戸新聞総合出版センター)/「仕事も結婚も」 (恒友出版)
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