明治・大正に活躍した最後の文人、富岡鉄斎(1836~1924)は水墨山水を得意としたことで広く知られていますが、彩色された山水画「青緑山水」にも優れ、精彩に富んだ美しい作品を多く遺しています。9月12日から開催されている展覧会では「群僊集会図」や「武陵桃源図」など名品の数々を観ることができます。
中国をはじめ、東アジアでは古来より人々は山水風景のなかに心を遊ばせることを理想とし、絵画に表してきました。その隠遁思想や神仙思想を受け継いだのが、近代日本における鉄斎と言われています。中国の画論や画法を学び、伝統的な青緑山水の継承者として、思想とともに清新な画面を創出しました。そうした画に対する意識、生き方が鉄斎を最後の文人画家と言わしめる所以ではないでしょうか。
青緑山水図のなかでも代表的な大作、六曲一双屏風「青緑山水図」は、湖水を取り巻く山々から流れる渓流に心を遊ばせる高士が描かれ、文人の理想とした世間の喧噪から離れた別世界を、鮮やかな緑青で彩色した山水画の中に観ることができます。77歳の作品です。
群青が際立つ81歳の作品「群僊集会図」は観る者を仙境の高みへと誘う傑作です。
展覧会では鉄斎の真骨頂とも言われる70歳前後から80歳代半ばの作品を中心に、最晩年の仙境図、「蓬莱山図」まで、前期・後期合わせて52点が展示されます。水墨とは違った色彩の魅力を存分に味わい、楽しんでみてはいかがでしょう。