清荒神清澄寺の境内にある鉄斎美術館は、近代文人画の巨匠・富岡鉄斎の作品、資料を 2000点以上所蔵する専門美術館として全国的に有名です。生誕180年に当たる今年は兵庫 県立美術館を始め、各地で記念展が開催され、鉄斎美術館でも新春に「鉄斎と蓮月―歌を よみ、土をひねる―」、春季に「鉄斎の書―自在の筆あと―」が開催され、11月27日までは 生誕180年記念展の掉尾を飾る「鉄斎―われ、丙申に生まる―」が開催されています。
近代の画家にも少なからず影響を与えた富岡鉄斎は自由奔放な筆致で独自の境地を画に
表し、晩年に多くの名作を遺しました。鉄斎は天保7年12月19日生まれで、60年を周期
とする干支では丙申の年にあたり、生日は奇しくも鉄斎が敬愛した中国宋代の文人・蘇東
坡と同じ日でした。鉄斎は83歳の時に東洋史の学者であった子息、謙蔵を若くして亡くし、
失意の時期もありましたが、制作意欲を持ち続け、死の直前まで筆を握り作品を遺します。
そして平均寿命が50歳にも満たなかった時代にあって89歳の長寿を全うしました。
「俗を嫌い、権門に屈せず、富貴に媚びず」という清廉な生き方を貫いた鉄斎の画に人々
は魅せられ、中国の老荘思想でもある仙境図や長寿を祝う吉祥画から賀寿の喜びを享受し
ました。鉄斎自身も古稀(70歳)を迎えたころから年齢を強く意識し、作品には干支、生
日、年齢にちなむ「丙申生」「東坡同日生」「九十翁」といった落款印が捺されています。
そこに、長寿を貴び、奇縁を大事にする鉄斎の姿を見ることができます。
60年に一度めぐる「丙申」の今年にふさわしい展覧会「鉄斎―われ、丙申に生まる―」。
「南極仙図」(写真左)「猿猴捉月図」(写真右)など晩年の名品に触れ、長寿を喜びとし
生涯現役を貫いた自由人・鉄斎翁の生き方を学ぶのも、鉄斎の画を味わう面白さです。