作家 増山 実さんと観る 「鉄斎の書―自在の筆あと―」

作家 増山 実さんと観る 「鉄斎の書―自在の筆あと―」

境内の若葉が目に鮮やかな新緑の清荒神清澄寺。鉄斎美術館では富岡鉄斎生誕180年記念の展覧会「鉄斎の書―自在の筆あと―」が開催されています。鉄斎は画家としてだけでなく書家としても知られ、すばらしい作品を世に遺しています。京都のまちでは老舗に鉄斎が揮毫した扁額が掲げられているのを目にすることもしばしばです。放送作家の傍ら二作の小説を世に出している増山実さんと鉄斎の書を味わいに美術館を訪ねました。

 兵庫県立美術館で開催されていた生誕180年記念「富岡鉄斎―近代への架け橋―」展では、多くの大作を間近に観て、鉄斎の世界に圧倒されました。音声ガイドをしていた越前屋俵太は、彼が書家として活躍する以前を知る間柄なので、遠い存在だと思っていた鉄斎を、身近に感じることができました。
 鉄斎美術館の「鉄斎の書」も期待に違わず、むしろ、より身近に楽しめました。
 鉄斎美術館は、大きな美術館と違ってワンフロアーに、年代順に作品が並んでいるのでとても見やすく、書風の変遷もわかりやすい。
 鉄斎の自宅に掲げられていた「画禅庵」という扁額を見上げてから展示室に入ると、生誕180年に相応しい80歳の作品「萬歳書」(前期)が最初に展示されています。墨をたっぷりと吸った筆で書かれた篆書は躍動感もあってバンザイをしている人のようにも見えました。「陶然書」(前期)も意の如く、酒に酔ったように気持がよくなります(笑)。
 鉄斎の書はかすれが美しい作品も多く、ポスターになっている、中国唐の詩人、白居易の詩を書した、「白居易問鶴詩書」(左上の写真、増山さんの右後)は一文字一文字が刻むように書かれていて、余白、印とのバランスが絶妙で、個性的なグラフィックのようです。詩の中に鶴という文字は書かれていないのですが、鶴に象徴される高士の世界がそこに表わされているように思えました。
 「長生安楽書」を見ていると「安」の字を崩してひらがなの「あ」になったことがよくわかります。漢字が象形文字ということも改めてよくわかっておもしろかったです。
 60歳頃からは篆書、隷書、偕書などの書体からも次第に自由になり、鉄斎のオリジナルになっているようで、書が画のように見えてきます。書と画の融合とでもいったらいいのでしょうか、僕が目指している小説もフィクションとノンフィクションが融合したオリジナルな世界なので鉄斎との共通点を見つけられたような気がしました。

作家 増山 実さんと観る 「鉄斎の書―自在の筆あと―」

▲増山実1958年大阪府生まれ。同志社大学を卒業後、出版社を経て放送作家に。人気番組「ビーバップ!ハイヒール」(朝日放送系)のチーフ構成などを担当。2013年「勇者たちへの伝言」2014年「空の走者たち」(共に角川春樹事務所)を刊行。文庫化もされ話題を集めている。2016年に三作目を刊行予定。

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