境内の低木に卵を産み付けたモリアオガエルが山に帰り、夏本番を迎えた清荒神清澄寺。史料館では「賀寿」をテーマに、陶芸の大家達の還暦・古稀・喜寿・傘寿・米寿・卒寿に関連した見ごたえある作品が展示されています。
「賀寿」とは長寿の祝いのことで、元は中国の風習ですが、日本でも元服、婚礼と共に三大祝儀とされ、現在も人生の節目として祝われます。
賀寿祝いの歴史は古く、奈良時代にまで遡ります。740年(天平12)に僧の良弁が金鐘寺で華厳経をあげて、聖武天皇の四十歳を祝したことが始まりで、この祝いは「初老の賀」「五八之賀」と呼ばれていたようです。その後、さらに高齢を祝う儀礼が追加され、江戸時代からは庶民の間でも行われるようになり、現在に受け継がれてきました。
展示室には人間国宝の陶芸家、荒川豊藏の作品を中心として「賀寿」に制作された著名作家の長寿に関連した作品が展示されています。豊藏が古稀、喜寿、傘寿、卒寿に制作した茶碗や水指などが展示されていますが、中でも89歳(卒寿)の作「瀬戸黒木葉金彩茶碗」が目を引きます。漆黒に金の木葉が浮かび上がる茶碗からは長寿を祝う崇高な気持ちが伝わってきます。同じく卒寿作の書「三昧」も歳を重ねた故の滋味ある作品です。
長寿に因んだ、永楽和全の「老松茶碗」や永楽善五郎の「菊茶碗」、楽慶入の「寿老ノ絵黒茶碗」も美しい絵付けが印象的な作品。また、清澄寺の先々代法主で芸術に造詣の深かった光淨和上が卒寿に制作した銘「百寿」の茶杓もご覧いただきたい逸品です。
「史料館」を訪れ、歳を重ね素晴らしい作品を生み出した先達の芸術に、ひと時触れてみてはいかがでしょう。