真夏の宝塚大劇場星組公演は、第一次世界大戦後の好景気に沸くニューヨークを舞台に、男女の愛憎のドラマを描いたミュージカル『The Lost Glory ―美しき幻影―』と、ラテン・グルーヴ『パッショネイト宝塚!』の2本立て。 一本筋が通った男役像を確立したいと語る、期待の若手実力派スター礼真琴。新人公演では、ダークな敵役、イヴァーノに挑む。
宝塚歌劇100周年の幕開けを1本物の大作で飾った星組が7月18日から1ヵ月間、『The Lost Glory−美しき幻影−』『パッショネイト宝塚!』の豪華な2本立てで宝塚大劇場に登場。『The Lost Glory−美しき幻影−』は、座付作者の植田景子氏がシェイクスピア4大悲劇の一つ「オセロー」をイメージモチーフにして第一次世界大戦後のニューヨークを舞台に新しく書き下ろしたオリジナルミュージカルだ。専科の轟悠が特別出演して主人公オットーを演じ、敵役のイヴァーノを星組トップスター柚希礼音が演じる。不屈の精神でアメリカンドリームを体現させたオットーに対し、執拗に復讐心を燃やすイヴァーノ。二大トップスターの競演は観客を極上のエンターテイメントの世界へ誘ってくれる。
その新人公演が8月5日に上演され、2009年に初舞台を踏んだ第95期生の礼真琴さんがイヴァーノ役に挑戦する。「ダークで色濃い敵役を演じるのは初めてです」
礼真琴さんは、わずか入団2年目で『ロミオとジュリエット』の宝塚版オリジナル役「愛」に抜擢され、情感あふれるダンスで一躍注目を集めた有望なスター。その後、2013年5月『ロミオとジュリエット』の再演、2014年1月『眠らない男・ナポレオン―愛と栄光の涯に―』などの新人公演で柚希の役に挑戦し、今回は3度目である。
「イヴァーノは黒い野心に燃える男。私が知っている、太陽のような明るい光に満ちた柚希さんのイメージとは対極にある役ですが、イヴァーノに扮した柚希さんは熱くて男らしくてキザ度100%(笑)。ものすごく魅力的です。台詞を喋らずに舞台上に立っているだけの場面でも、柚希さんが醸し出す芝居心をすごく感じます。私にとってイヴァーノ役はハードルが高く、新たなチャレンジだと思っています」
一方、轟悠とは初めての舞台。「轟さんは同じ人間とは思えないオーラに包まれていて、直接お話しすることなど考えられないかた。でも座談会で『下級生にどんどん話しかけていきたい』とおっしゃってくださったので、私もくらいついていきたいと決意を固めました」
そんな礼真琴さんが本公演で演じるのはパット・ボローニャという「伝説の靴磨き」だ。作品中、唯一実在する人物で、証券取引所のそばに陣取り、株価の情報を集めて密かに教えるため、靴を磨いてもらいにくるお客が絶えなかった。「賢くてやんちゃなパットは大人よりしたたかなところのある18歳。子どもっぽく創らず、一人の男として存在したいと思います」
今年5月、『かもめ』で宝塚バウホール初主演を果たした。「歌も踊りもほとんどなく、長い台詞に感情をのせて伝えることを勉強しました。その後、苦手意識のあったお芝居を楽しんでやれるようになったと感じています」
礼真琴さんは大劇場公演『ロミオとジュリエット』で再び「愛」を演じた時、越えなければいけないのが3年前に「愛」を演じた自分だったことにプレッシャーを感じたという。役替りで演じたベンヴォーリオは「これまでで最も苦戦した役です。柚希さんが演じるロミオよりも年上で、モンタギュー家のリーダー的存在。歌っても踊ってもベンヴォーリオになれず、一瞬、歌も踊りも嫌いになってしまったことがありました。新人公演でロミオを演じて等身大の自分を解放できたあと、やっとベンヴォーリオになれたように思います」 経験を自らの力に変えていく礼真琴さんの朗らかな知性には、きっと誰もが惹かれるはずだ。目標とする課題をお聞きすると、
「宝塚の男役として、一本筋が通った男役像を自分の中に確立したいです」
さて、『パッショネイト宝塚!』は星組にとって久々のショーだ。宝塚歌劇100周年の歴史の中でも魅力的なレパートリーの一つであるラテンの世界を、黒塗りの化粧で歌い踊る。「しばらく踊っていないので踊りたい気持ちが燃え上がっています」
幕開きから踊りまくる礼真琴さんを何度でも観たくなるにちがいない。
2009年『Amourそれは…』で初舞台、星組に配属。13年『ロミオとジュリエット』新人公演で新公初主演。14年『眠らない男・ナポレオン』新人公演で新公主演、5月バウホール公演『かもめ』でバウ初主演。
出身/東京都 愛称・まこっつあん、こと、どんちゃん