3月11日まで上演中の花組宝塚大劇場公演は、ダニー・オーシャンと10人の仲間がラスベガスにあるカジノの金庫破りに挑むアメリカ映画を、2011年星組でミュージカル化して好評を得た『オーシャンズ11』の再演。 昨年バウホール主演を果した花組男役ホープ・望海風斗、卓越した演技力と歌唱力で、敵役ベネディクトに挑む。
アメリカ映画「オーシャンズ11」を世界で初めてミュージカル化したのが、2011年に上演された宝塚歌劇団星組公演『オーシャンズ11』である。
2013年2月に花組で上演されると知ったとき、ラスベガスを牛耳るホテル王、テリー・ベネディクトのキャスティングに宝塚ファンは思いをめぐらせた。映画ではダニー・オーシャン率いる犯罪チーム11人の面々が実に個性的である。花組ではここ数年間、男役スターたちの異動や退団が続いた。もちろん実力のある個性豊かな下級生たちが揃っている花組なので、誰がどの役に抜擢されるのだろうと興味津々だったのである。
「花組で『オーシャンズ11』をやると分かった時から、ベネディクトは魅力的な役だなと思っていました。でも、まさか私が演じさせて頂くとは思いませんでした」と華やかな笑顔で話す望海風斗さん。今年4月で入団11年目になる第89期生だ。「一代でのし上がってきたベネディクトは、ものすごく生きるパワーのある人だと思います。彼を演じるためには、そのパワーを表現しなければなりません。むずかしいですね」
宝塚歌劇の敵役の中でも、ベネディクトは珍しいタイプだろう。「私が知っている敵役も大抵、暗くて神経質そうなキャラクターです。でもベネディクトは明るくてパッショネイト。蘭寿とむさんが演じるダニー・オーシャンの妻で、今はベネディクトの恋人であるテスの気持ちが、二人の男の間で大きく揺れ動くわけですから、ベネディクトはそれほどの魅力をもっていないといけない役だと思います」。つまり、それだけ、やりがいがある。
ところで子どもの頃の望海風斗さんは、物心がつく前から近所の子どもたちを引き連れ、先頭をきって遊びに行くような活発な女の子だった。初めて観た宝塚歌劇公演、月組『グランドホテル』の舞台の美しさに感動したのがキッカケで、男役をやりたいと思い始めた。クラシックバレエとピアノは習っていたものの、「趣味程度でしたので、宝塚音楽学校を受験すると決めてから本格的にレッスンを始めました」
念願叶って音楽学校に入学した望海風斗さんは成績優秀で委員をつとめ、持ち前のリーダーシップを発揮。2005年バウホール公演『くらわんか』では貧乏神と道楽者の徳兵衛を役替わりで好演し、芝居心を感じさせた。研7を目前にした2009年の『太王四神記―チュシンの星のもとに―』で新人公演初主演を果たし、そのときの気持ちを「新人公演主演は憧れであり目標でしたので、すごくうれしかったです」と2010年7月の取材の折に話してくれたが、そのストレートな言葉がとりわけ印象的だった。研7最後の『外伝 ベルサイユのばら―アンドレ編―』の新人公演でも主演。2012年11月、満を持して宝塚バウホール公演『Victorian Jazz』の主役の座を射止め、新たな魅力で期待に応えた。ほかにも2010年の宝塚バウホール公演『CODE HERO/コード・ヒーロー』の2番手役ハルや、2012年の『サン=テグジュペリ―「星の王子さま」になった操縦士(パイロット)―』のキーマン、ホルスト役でも存在感を見せつけた望海風斗さん。
「これまで演じてきた役が自分の骨組みをつくってくれているのを感じます。今はお稽古場で苦しみながら生み出すことが楽しくなりました。下級生の頃、小池修一郎先生が私の欠点を見抜き、ズバッと指摘して下さったことがあります。おかげで自分の未熟な部分を、どのように修正して役づくりにつなげればいいか、男役としての進み方や進む方向がクリアになり、今の私のスタイルにつながってきたように思います」
昨年の宝塚バウホール主演経験が、さらに男役・望海風斗の輪郭を濃くした。「これまでは自分しか見えていなかったことに気づきました。私ががんばってみんなを引っ張るのは当たり前。時には周りに身を任せ、甘えるような気持ちもあっていいんじゃないかと上級生に教えていただき、目の前の扉が開いた気がしました」
会得した存在感の大きさで、新たなベネディクトに挑む。
2003年『花の宝塚風土記』で初舞台、花組に配属。9年『太王四神記』で新人公演初主演。12年バウ・ホール公演『Victorian Jazz』でバウ初主演。
出身/神奈川県 愛称・だいもん、ふうと