4月9日まで上演中の雪組宝塚大劇場公演は、16世紀、世界各国に領土を広げる強大なスペイン帝国の快活な王子を描いた『ドン・カルロス』と、幻想的なダンシングショー『Shining Rhythm!』の2本立て。 新人公演卒業後、多彩な役にも挑戦する実力派、香綾しずる。宝塚歌劇100周年に向け伝統を受け継ぎ、宝塚らしい男役を追求する。
4月9日まで宝塚大劇場では雪組公演『ドン・カルロス』~シラー作「スペインの太子 ドン・カルロス」より~と、レビュー『Shining Rhythm!』を上演中。ミュージカル『ドン・カルロス』は1560年代後半のスペインが舞台。王子カルロスと女官レオノールの密やかな恋物語を芯に、カルロスと父親との確執や親友との駆け引きなどがドラマチックに描かれている。そして、王子カルロスの教育係ルイ・ゴメス・デ・シルバを演じているのが、4月で研9になる香綾しずるさんだ。
「ルイ・ゴメスは50代前半の役です。実話なので、実際もカルロスの父親でスペイン王のフェリペ二世より10歳上だったそうです。脚本・演出の木村信司先生には、芝居の中で周りより年上に見えるように、声は80歳代、姿勢は50代のつもりでやるように言われています」
教育係のルイ・ゴメスが王子カルロスを厳しく諭す場面がある。カルロスが教会で市民たちに施しをする場面だ。「市民と揉めないように『そういうことをしてはいけませんよ』と。上級生よりも年上の役は初めてなので、自分としては結構厳しい状況ですが、最近、役の幅を広げたいなとすごく思っていたところなので、いい機会をいただいたと感謝しています」
香綾しずるさんは2004年に初舞台を踏んだ第90期生。宝塚ファンの母と一緒に年1回、山口県の自宅から夜行バスに乗って宝塚を訪れ、大劇場公演を観劇していた。家には宝塚歌劇のビデオもあり、主題歌は日々の暮らしの中で自然に耳に入ってきた。小3からクラシックバレエを習っていたが、いわゆる宝塚受験のためのレッスンは何もしていなかった。音楽学校を受けたのは母に強く勧められたから、と香綾しずるさん。
「合格できるとは思っていなかったので、とても驚きました。でも、あなたたちの後ろには20人くらい、入りたくても入れなかった人がいるのだから、その人たちの分まで頑張りなさいと言われて、歌、ダンス、お芝居などを必死に勉強しました。すべて好きなことばかりなので授業はすごく楽しかった。入団まもない下級生時代は、ショーでスカートをはくこともあり、男役であることを意識するようになったのは新人公演で上級生の役をさせていただくようになってからです」
香綾しずるさんは新人公演時代に音月桂の役を3回、演じている。新公初主演は研5。水夏希主演『ZORRO仮面のメサイア』のドン・ディエゴ役だ。
「それまでの私は与えられたことを頑張ればいいと思っていました。宝塚バウホール公演では本公演より少し大きな役をもらえますが、それでも、その役を精一杯頑張ろうという意識しかありませんでした。新人公演で初めて主役を演じる本番前日、水夏希さんに、自分のことだけではなく舞台全体に対して、主演者には座長としての責任があることを、教えて頂きました。東京宝塚劇場の新公が終わった後、水さんに『すごく変わっていたよ』と言っていただきました」
現トップ音月桂が率いる雪組では、千秋楽のあと2、3日休むと次の舞台の稽古が始まるというハードな活躍ぶりだ。ショーでも一人で歌うことが多くなった。雪組の上から数えて男役10人以内に入り、下級生を引っ張っていく責任も重い。
「『Shining Rhythm!』はこれぞ宝塚という感じのレビューです。出演している私たちもプロローグからワクワクしています。今までは、うまく踊ろう、うまく歌おう、と思ってやってきましたが、そんな自分とはちがう、濃くてキザな男役に、ちょっとしたところから変えていければ」
宝塚歌劇100周年の年には研10になる香綾しずるさん。
「いつまでも宝塚歌劇が変わらないでいてほしいです。宝塚らしさをなくさないでほしい。そのためにも、オーソドックスな黒燕尾の伝統をきちんと受け継ぐ、宝塚らしい男役を心がけていきたいと思います」
これぞ、男役の真骨頂だ。
2004年『スサノオ』で初舞台、雪組に配属。
09年『ZORRO仮面のメサイア』新人公演初主演。
山口県出身/愛称・がおり