12月13日まで上演中の星組宝塚大劇場公演は、 2001年に公開されたアメリカ映画で、ダニー・ オーシャンと10人の仲間がラスベガスにあるカジ ノの金庫破りに挑むアクションドラマをミュージ カル化した『オーシャンズ11』。 恵まれた資質を活かした舞台姿で存在感を放つ男 役ホープ、真風涼帆。数々の抜擢にこたえ、今年 の掉尾を飾る舞台でさらなる飛躍をとげる。
2011年8月に真風涼帆さんが宝塚バウホールで初めて主演した『ランスロット』のプログラムは、印象的だった。表紙は紺青で、円卓の騎士の長、ランスロットに扮した真風涼帆さんが、剣を振り上げた一瞬を捉えている。さらに次ページの見開きは朱色の背景に甲冑のシルバーが映え、今にも剣の切っ先が飛んできそうな緊張感に溢れている。クールな二枚目と称される真風涼帆さんの、精悍な表情が殊更に美しい一枚だ。
「マントを翻し、声を出しながら動いている最中に、撮っていただきました」
剣を用いた立ち回りが随所に見られる舞台だが、中でもランスロットの殺陣の場面はかなり多い。
「思いがけず、バウ初主演のお話をお聞きしたのは『ノバ・ボサ・ノバ』でオーロ、マール、メール夫人の3人を役替りで演じていた時でした。驚きましたが、時間に追われていてきちんと受け止める余裕がなく、本当に実感できたのはお稽古が始まってからでした」
最初は気負いもあったが、稽古に夢中になるにつれて、自然と忘れていったという。
「下級生の出演者が多い公演でしたが、上級生のお力をお借りして、私を含め一人ひとりが課題に取り組み、明るく元気に誰一人欠けることなく、千秋楽を迎えました。楽しかったです」
その後、久しぶりに少しお休みがあった真風涼帆さん。「お稽古中や公演中は生活のリズムが不規則になりがちなので、休暇中は早寝早起きを心がけて掃除や料理をして過ごし、すごくリフレッシュできました」
次の舞台は、世界初のミュージカル化で話題の『オーシャンズ11』。映画はジョージ・クルーニーやブラッド・ピットなどハリウッドを代表する豪華な俳優が多数出演していることでも有名。ラスベガスのカジノの金庫破りに挑む犯罪アクションドラマだ。真風涼帆さんの役はマット・デイモンが演じている、黄金の指をもつスリの青年ライナス・コールドウェル。「大人になりきれていない、少年と青年の中間のような難しい年頃の役は最近演じていなくて、2008年『ブエノスアイレスの風』のマルセーロまで遡るかもしれません。フットワークが軽いイメージで、楽しく繊細に演じたいです。ポスターも6人の中で1人だけラフな雰囲気で写っています」
その公演中の11月29日。真風涼帆さんにとって3度目の新人公演主演の幕が上がる。星組トップスター柚希礼音が本役の、映画ではジョージ・クルーニーが扮する主人公ダニー・オーシャン役に挑戦するのだ。どんなオーシャンを見せてくれるか、とても楽しみである。それにしても、これまで真風涼帆さんが主演した新人公演は、トップの退団公演と新トップのお披露目公演という話題作。因みに初舞台もトップコンビの退団公演だった。
世代を超えて愛される天性の魅力を備えた真風涼帆さんへの期待の大きさと運の強さは疑いようがない。ご自身は大らかな努力家である。
改めて宝塚との出会いをお聞きすると「中学生のときに、月組の全国ツアー公演『大海賊』を観に行き、会場に置いてあった宝塚音楽学校の願書を見て、受けてみようと。それまでは私も家族も宝塚のことをよく知らなくて、ただ舞台に立って踊りたいという願望だけで男役と娘役のちがいもよくわからずに受験しました。音楽学校時代に演劇の先生から、男役とはどのような存在かということを教えていただき、いつもリーゼントにシャツの襟を立てるなど、同期と一緒に男役らしさを模索し始め、一気に男役への憧れが高まった状態で入団しました。でも、宝塚の舞台に立つことは私が想像していたより遥かに大変なことでした」
周りの期待と自らの夢が一つに重なったとき、初めて越えられる壁がある。
2011年、歌劇団の2010年度新人賞を受賞した。
「いろんな挑戦をさせていただけることは幸せなことなのだと、今はかみ締めています」
そう言って、スックと立ち上がった全身が、こぼれんばかりの光の粒に包まれている。
2006年『NEVER SAY GOODBYE』で初舞台、星組
に配属。09年『My dear New Orleans』新人公演で
初主演。11年バウホール公演『ランスロット』でバウ
初主演。
熊本県出身/愛称・ゆりか、すずほ