俳景(三) -洛中洛外・地球科学と俳句の風景

発行日 2007年12月22日
第一刷
著者 尾池和夫
発行者 高岡幸弘
編集 田崎まき子
四六判並製本256ページ

2003年から京都大学の総長を務める尾池和夫氏が宝塚出版から「俳景」「続・俳景」に続く「俳景(三)」を昨年末に出版した。俳景は尾池氏が所属する俳句結社「氷室」の月刊俳句誌に連載されたエッセイを本にまとめたもので、今回出版した三冊目には2002年から07年までのうち57回分が収録されている。地震学者、尾池氏がかねてから主張している日本を含む変動帯の文化について書かれた本書は阪神淡路大震災後、地震予知、防災への関心が高まる中、全国発売直後から話題になっている。

「俳景」は「世界の変動帯」(岩波書店)「日本地震列島」(朝日文庫)「新版活動期に入った地震列島」(岩波書店)など数多くの専門書を執筆している地震学者の尾池氏が、地震によってできた日本、そこに生まれた都市、そこで育まれた文化を氏のライフワークでもある俳句を随所に織り交ぜながら紹介する異色のエッセイ集である。

帯に「地球社会の調和ある共存と変動帯の文化」とあるように表紙には南極を加えた6大陸が浮ぶ地球がデザインされ目を引く。本書には安定大陸である南極でも1998年3月には南極観測史上初の巨大地震が起こったことが記されている。4つのプレートがぶつかってできた日本は地震国であり、激しく動く大地に生まれ育った文化と安定大陸に生まれた文化とはおのずと異なる。それを氏は「変動帯文化」と位置づけ、琵琶湖、京都盆地、日本の地下水からインドネシアの巨大地震までその時々の地球の現象を紹介すると共にそこに生まれた文化を描いている。活断層運動によって出来た盆地に都がおかれ、茶の湯が生まれ、和菓子が作られ、豆腐や湯葉、京野菜が京料理を生み、底冷えと地下水が銘酒を生んだ。

今に伝わる日本の文化は季語を要とする俳句を始め地震国であるが故なのだということがわかり興味深い。世界に起こる地震の約1割は日本で発生し、地震学会が明治の初めに誕生したのも日本。津波という言葉が世界共通語となったのもこの本を読めばうなずける。地震の発生は防ぐことはできないが、地震というものを少しでも理解することが、「防災」意識につながるといえる。活動期に入っている今の日本列島、差し迫る巨大地震に備え、「地震を知って地震に備える」を肩肘張らずに、俳句を味わいながら読みすすめることができる。

火の山の火を奥深く山眠る柴崎節子(中越地震を考える)
波の音をりをりひゞき震災忌久保田万太郎(「防災の日」前後)
氷見港の鰯バケツで運ばるる尾池和夫(能登半島の地震)

著者からのコメント
地球は私たちの住んでいる惑星です。地球はよく水の惑星と言われます。
しかし、彗星も水の塊です。暗黒星雲にも氷の粒が満ちていて、宇宙にはたくさんの水があります。地球だけに水が多いわけではありません。
でも、地球の水のおかげで生物が生まれ、私たちも生まれました。その地球のことを少しでもくわしく知っていただいて、地球社会全体が自然の中で安定して維持されるように、みんなで工夫していけたらいいなと、私は思っています。
変動帯である日本列島に生まれ育った私たちには、地震や津波や噴火から暮らしを守る智恵があります。その智恵をもう一度思い出して、地球のことを知って、地震のことを知って、そして震災に備えてほしいと思っています。
安全で安心な暮らしのためにも、この本が少しでも皆さんの役に立ってくれることを願っています。

尾池和夫(おいけかずお)
1940年東京生まれ。63年京大理学部地球物理学科卒業、85年度地震学会委員長、88年京大理学部教授、91~97年度日本学術会議地震学研究連絡委員会委員長、95~97年日本学術会議阪神淡路大震災調査特別委員会委員、2001年京大副学長就任、03年12月より京大総長。日本学術会議連携会員、京都防災会議専門委員など兼職。「氷室」同人、俳人協会会員

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