メリメの「カルメン」をモチーフにドン・ホセの波乱に満ちた生き様を華麗に描き上げた星組・全国ツアー公演『激情―ホセとカルメン―』は5月23日まで。そして、5月26日は東京會舘で、30日31日は宝塚ホテルで、宝塚歌劇をこよなく愛する涼紫央が、伝統的な男役像を追求し温め続けてきたこだわりをもって、ディナーショー『Profile』を開催する。
星組全国ツアー公演『激情』『BOLERO』が、千葉、埼玉、静岡、福岡、神奈川、富山、岐阜、愛知、広島、愛媛の各地で上演中だ。大阪に戻るのは5月22日。梅田芸術劇場メインホールで23日、千秋楽を迎える。『激情』―ホセとカルメン―で小説家メリメと、カルメンの夫ガルシアの二役を演じているのが涼紫央さん。宝塚きっての貴公子スターである。
「二役は初めてです。ガルシアは麻薬組織のボス。こんな色濃い役がずっとやりたかったので、すごく楽しんでいます。一方、メリメは難しい。彼は『激情』のモチーフ「カルメン」の原作者。ドン・ホセに並々ならぬ興味をもつ真面目な学者です。ダークなボスと小説家。全くタイプの異なる二人の人物を、早変わりの連続で演じ分けます」
『激情』は1999年に宙組により上演され、第54回文化庁芸術祭演劇部門優秀賞を受賞した作品。今回は全国ツアーバージョンなので、新演出にも注目したい。
「昨年の『太王四神記Ver.II』の大長老プルキルは人間ではない役でしたが、演じていてとても楽しく、もう一度やりたい役ですね。魔力をもつ悪役は共感できるラインを超えていて、どのようにも演じられる楽しさがあります。例えば蛇が毒の舌を隠して目だけで世の中を見ている、その目を横に向けたら火が出そうなー。最後に自分の望みが潰えたときはプルキル自身は死に切れないでしょうね。かわいそうだと、新人公演を見て思いました。でも思いはひきずらないですよ、すぐにフィナーレナンバーになりますから」
そこが宝塚歌劇の素晴らしいところだ。胸に残る苦しみも悲しみも一瞬のうちに昇華し、喜びに変わるフィナーレ!
多彩な役柄を演じて新境地を拓いた涼紫央さんは今年、4年ぶりにディナーショーを開催する。全国ツアーの3日後に初日という、ハードスケジュールだが一体、いつ、お稽古するのだろうか。「もうばっちりですよ(笑)。全国ツアーの稽古前に終えました。タイトルの『Profile』の意味は自己紹介ではなく横顔。前回のディナーショーは宝塚の曲ばかり、しかもアレンジなしに歌ったので、今回はサイドから見た宝塚にしようと。でも、やっぱり真正面からになりましたね。シナリオを岡田敬二先生にお世話になりながら、時間をかけて書きました。記憶に深く刻み込まれているファン時代のこと、受験失敗談、入団当時のエピソードなどを披露し笑っていただきます。宝塚の大好きな曲をたっぷり歌いますし、ジャズにも、そしてメンバーとの高度なアカペラにも挑戦します。宝塚メドレーはすごい曲数なんですよ。温め続けてきた、私自身のこだわりを楽しくお伝えしたい」
涼紫央さんのディナーショーに賭ける思いはポスターにも表れている。アンティークな額縁の中からこちらをじっと見つめる涼紫央さんの静かで思索的な表情は、見る者の視線を引き寄せて離さない。ふんわりと空気を含んだショートヘア、ゴージャスだがナチュラル風なメイクが素顔の美しさを引き出し、宝塚らしい重厚感に満ちている。
「ファン時代は舞台からエネルギーをもらいましたが、今はお客様から感動をいただいています。宝塚を愛する気持ちが舞台や稽古場で表現でき、下級生がそれを感じてくれるような上級生になれれば。好きなことをお仕事としてさせて頂いているのは、とても幸せです」
宝塚を愛する思いの結晶が、宝塚歌劇の輝きのもと。宝塚の貴公子は愛の伝道師でもある。
1996年『CAN‐CAN』で初舞台、同年星組に配属。2002『プラハの春』で新人公演初主演。03年バウ・ワークショップ『恋天狗』でバウ初主演。05年『それでも船は行く』でバウ・ホール公演主演。09年「太王四神記ver.II」では大長老プルキルを演じ話題を呼ぶ。
大阪府出身/愛称・とよこ