9月22日まで上演中の宝塚大劇場雪組公演は、ファンタジックなショー『ソロモンの指輪』と、カリブ海を舞台にラテン音楽に乗せて展開するサスペンス・ミュージカル『マリポーサの花』の2本立て。抜群の歌唱力と幅広い演技で観客を魅了する彩吹真央、また新しい魅力を開花させ、真夏の舞台をくりひろげている。
雪組の強力な2番手、彩吹真央さん。確実にチャンスを生かし、キャリアを積み上げてきたスターである。その彩吹真央さんが、「いつもの彩吹、という固定したイメージではなく、自分らしさは日々、新鮮にと心がけています」
雪組に戻って3度目になる宝塚大劇場公演『ソロモンの指輪』『マリポーサの花』のオリジナル二本立てに臨み、そう語る。変わらぬ自分らしさと、常に新鮮である自分。これら異質の物を一つに融合させるのは容易なことではない。自分自身を信じ、変化し続ける強さがあればこそ、なのだ。
「マイペースです。ずっと私なりの呼吸と歩幅で立ち止まらずにやってきました。それは今後も変わらないと思いますが、今、特にすごく自分の中が活気づいていて、あらゆることにチャレンジしています」
昨年、結成したトップ水夏希を含む彩吹真央さんら雪組5名のユニット、AQUA5のセカンドシングルが8月27日に発売される。デビュー曲“TIMETOLOVE”のヒットでメディア露出が急増したのは周知の事実。その活動が今後も続く。
「宝塚が好きで、舞台に立っていられるだけで幸せなのに、それ以外の活動もさせていただけるのはありがたいこと。宝塚歌劇をまだご覧になっていない方々に舞台を観ていただけるキッカケになればうれしいですね。ふだんの舞台経験が5人のハーモニーに生きているし、AQUA5の経験がまた舞台に生かされる。今の雪組にしかできないことが無限にあると思います。ぜひ、たくさんの方々に大劇場公演を観に来ていただきたいですね」
演目の一つ、正塚晴彦氏の作・演出による『マリポーサの花』はサスペンス・ミュージカル。政権に嫌気がさして軍を抜け出た男の表の顔は高級クラブの経営者だが、裏では密輸で巨額の富を得ている。そこに隠されたもう一つの真実とはー。
彩吹真央さんが出演した正塚作品には花組公演『LaEsperanza』がある。そのときはタンゴダンサーを夢見る青年フアンを演じた。今回は主演・水夏希とほぼ同年齢の片腕ともいえる役柄。普段の2人の関係の良さを彷彿とさせる面白さが期待できる。
もともと雪組だった彩吹真央さんが花組に移籍したのは研5の1998年10月だった。1年上に、前年に月組から花組にきた水夏希がいた。2000年に水夏希が宙組に移籍するまで、共に切磋琢磨する時代が続いた。
たとえば99年1月、大劇場公演『夜明けの序曲』の新人公演は主役の川上音二郎・水夏希、高浪定二郎・彩吹真央。6月、水主演の宝塚バウホール公演『ロミオとジュリエット’99』にはマーキューシオ役で彩吹真央さんが出演。8月、大劇場公演『タンゴ・アルゼンチーノ』『ザ・レビュー”99』、翌4月『源氏物語あさきゆめみし』『ザ・ビューティーズ!』、そして04年、宙組から水夏希が特別出演した『LaEsperanza』『TAKARAZUKA舞夢!』など。
「新人公演で苦楽を共にした関係。私のいいところも悪いところもご存知なので、水さん主演の新生雪組スタートと同時に雪組生として再出発できることに運命を感じました。組替えは本人にとって良くも悪くも衝撃的な出来事ですが、真っ先に感じたのは舞台人として芸の幅を急速に広げられるという希望。今振り返っても当時の自分には必要なことだったなと思います。予想はしていませんでしたが(笑)」
すでに『ファントム』のキャリエール役で絶賛を浴びていた。その男役・彩吹真央を待っていたのは彩吹さんにとって3度目の『エリザベート』出演だった。皇帝フランツ・ヨーゼフ役である。初演の雪組で黒天使、花組でルドルフ、新人公演でシュテファンとエルマー。登場人物のうち5名を演じた彩吹さんの記録はまだ誰にも破られてはいない。
「花組でフランツの代役でした。他の役の音楽も台詞も身体に染み込んでいた。1から覚える苦労がなかったので、もっと深く創りこまなければと。下級生にもできる限りアドバイスをしたと思います」
そして同年10月、シアター・ドラマシティ公演『シルバー・ローズ・クロニクル』に主演。この、製薬会社の庶務課に勤めながら怪奇映画評論を執筆している一見、風変わりな青年エリオット役は、メガネをかけ、自転車を乗り回す、オタク系の主人公という斬新な作品だった。光源氏、ルートヴィヒ、豊臣秀頼、土方歳三、フランツなど、彩吹さんが演じてきた宝塚的二枚目像を裏切るキャラクターに観客は一瞬びっくりしたが、すぐに心を鷲づかみにされた。彩吹真央さんのあったかいピュアな魅力が全開したのだ。
「台本が面白かったのでお客様に楽しんでいただける確信がもてました。演技者として成長するために何でもやりたいと思っています。どんな役かではなく、役をどう生きるか、どう生き抜いてお客様に感動していただくかが大事なことなのです」
彩吹真央さんの中から、どんな人物が生まれ続けるか、期待に胸がふくらむ。
※次号のフェアリーインタビューは
宙組の七帆ひかるさんの予定です。