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2007年11月 真野 すがたさん

10月29日まで上演の宝塚大劇場花組公演は、ピカレスク・ロマン溢れる冒険活劇ミュージカル『アデュー・マルセイユ』ーマルセイユへ愛を込めてーと、あらゆるジャンルの音楽で愛の喜びや美しさを歌い上げるグランド・レビュー『ラブ・シンフォニー』の2本立て。真野すがた等花組若手スターが一致団結、春野寿美礼のさよなら公演を熱く盛り上げている。

立姿の美しさに大人の香りが漂う

花組宝塚大劇場公演『アデュー・マルセイユ』『ラブ・シンフォニー』に出演している真野すがたさんが、ひときわ輝いて見える。その理由は複数あるのだが、まず時を遡り、男役・真野すがたが誕生する経緯から。中学時代に、舞台観劇以外にも、宝塚ファンの同級生から借りたビデオを毎日のように見ていた真野すがたさん。特に好きだったのが、シェイクスピアの「真夏の夜の夢」に登場する妖精パックを主人公にした『PUCK』。小池修一郎の菊田一夫演劇賞受賞第1作である。ファンタスティックなテーマ曲が流れて、ミッドサマー・イヴの世界に一気に引き込まれる幕開きが印象的な美しい作品だが、主演スターがいたずら好きの妖精を演じるという、今でこそ主演スターが人間以外のもの、例えば黄泉の帝王やドラキュラなどを演じることも、むしろ、ある種の宝塚らしさとして歓迎され定着してきているが、当時としては異色の宝塚歌劇だった。だが、この出会いは真野すがたさんにとって、運命的なものだったと言わなければならない。

「ビデオを100回以上繰返し見て、振りも台詞も全部覚えました。何の先入観もなく、ただ作品にすごく引かれた。あの頃の宝塚歌劇は友人から借りたビデオでほとんど全て見ています」あの頃とは、1989年『ベルサイユのばら』が再演されて、宝塚歌劇の人気が沸騰し、94年に音楽学校の倍率が48倍に達した、平成の黄金時代である。その3年後の97年、真野すがたさんは念願どおり宝塚音楽学校に合格した。初舞台は99年『ノバ・ボサ・ノバ』。「夢の舞台にやっと立てたといううれしさでいっぱい。舞台の怖さもわからず、楽しいばかりの毎日でしたが、先輩たちのプロ意識と舞台の熱気に感動しました」

新人公演出演のため、初舞台生が特別にソデから舞台を見学できた。その時に感じた偽りのない実感だ。芝居に強いと言われる月組に配属された真野すがたさんは、役と真摯に向き合ってきた。やがて2003年4月、『シニョールドン・ファン』の新人公演で、事件の鍵を握るロドルフォ役に抜擢される。本役は、芝居の上手さに定評のある汐風幸。「男役らしい役で、自分はこういう役をやりたいんだと初めて意識しました。その直後に出演したダンス・コンサート『Lica—Rica/L.R』で出演者が一丸となって盛り上がり、普段の力以上のものを出せたことが、一つの転機になりました」

同年11月、『薔薇の封印』新人公演では準主役のミハイルを演じたが、この修道僧ミハイルこそ、薔薇の封印を破ってヴァンパイアと化し、主人公を追い詰める運命を背負った魔物だった。05年2月、『エリザベート』の新人公演では皇帝フランツ・ヨーゼフ役が与えられた。広い音域で、正確に歌うことを要求される難曲揃いの役である。「悔いが残っています。何よりも歌唱力が必要な役で、当時の自分は表現したいものを音楽に上手くのせられなかった。悶々としたまま本番を迎えてしまったので、もう一度チャレンジしたいと強く思っています。今もウォーミングアップの時にフランツの歌を歌っているんですよ」いくつかの反省点が残ったものの、同年9月『JAZZYな妖精たち』新人公演で主役パトリックを堂々と演じた真野すがたさん。「主役は周りの人たちに支えられて存在しているということをあらためて実感することができました。出演者だけでなく、スタッフ、先生、お客様あっての舞台なんですよね」

そして翌06年8月、これまでの宝塚人生で最大の驚きが真野すがたさんの全身を貫いた。7年間すごした月組から花組への移籍が発表されたのである。「お聞きした瞬間、びっくりして、月組を去る寂しさでいっぱいになりましたが、今は一度は組替えするべきだと思うほど、自分にとっていいことばかりで」組替えショックが強かった分、新しい刺激が身体に染み込むのも早かった。「環境が変わることで、新しい自分を育てられるプラス面は大きいです。初対面の下級生と話そうと思ったら自分から行動を起こすしかない。自然と積極的になりました。1番大きな変化は、まず舞台を楽しもうと心に決めたこと。花組の人たちは下級生に至るまで舞台を楽しむ気持ちがいっぱいなんです。それがお客様が楽しまれる原点なんだと。すごくシンプルで大事なことを思い出せた時に、自分の中で何かが一つ弾けた。そんな時、主演のお話をいただきました」

真野すがたさんは来年2月、宝塚バウホール公演『蒼いくちづけ』にドラキュラ伯爵役で主演することが決まっている。1987年に紫苑ゆう主演で上演され話題を浚った小池修一郎作品だ。花組生になってから、クールで大人っぽいといわれるようになった真野すがたさん。理知的に見えるのが持ち味、と小池氏は評する。さりげなく視線を落とすだけで表情が一変し、その場を包む空気に花の香りが立ち込めるー。かと思うと、鋭い腕の一振りに、燃える熱情がほとばしるー。華ある舞台人の資質に恵まれた、美しい男役だ。「小池先生の作品が宝塚入りのキッカケ。妥協を許さないご指導に食らいついて行きたい。その前に今の大劇場公演に全力投球します」

上演中の大劇場公演は小池修一郎オリジナル作品も中村一徳作のショーも絶好調だ。その中でも見所はやはり、大階段での黒燕尾の男役によるダンスシーン。「退団される春野寿美礼さんを中心に全員の熱気が稽古場からものすごかった」絶対に見逃すわけにはいかない場面である。

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※次号のフェアリーインタビューは星組の夢乃聖夏さんの予定です。

1999年『ノバ・ボサ・ノバ』で初舞台、同年月組に配属。 2005年『JAZZYな妖精たち』新人公演で初主役。 06年花組へ組替え。 神奈川県出身/愛称・めお

インタビュアー 名取千里(なとりちさと)
ティーオーエー、現代文化研究会事務局/宝NPOセンター理事主な編著書「タカラヅカ・フェニックス」(あさひ高速印刷)「タカラヅカ・ベルエポックI・II」(神戸新聞総合出版センター)/「仕事も結婚も」 (恒友出版)
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