6月16日まで上演、宝塚大劇場花組公演は宝塚ミュージカル・ロマン『愛と死のアラビア』ー高潔なアラブの戦士となったイギリス人ーと『RedHotSea』の2本立て。タカラヅカの伝統美を受け継ぐ真飛聖、大劇場お披露目公演は、砂漠を舞う異国のハヤブサ、死と向かい合って生きる実在の戦士・トマス・キースを熱く演じる。
真飛聖さん率いる新生花組の、宝塚大劇場お披露目公演がスタートした。
5代に亘って生粋の花組育ちがトップを務めてきた花組。16年ぶりに他組経験のある新トップ披露公演はそれだけでも充分興味深いのだが、主演スター真飛聖さんがどんなに熱い舞台を見せてくれるか、絶対見逃すわけにはいかない公演である。
「私が演じるトマス・キースは実在したイギリス兵です。エジプト軍の捕虜となり、アラブの戦士として生涯を終えました。現代に生きる自分たちの想像を超える世界ですが、原作を読み、死と向かい合って生きる戦士のパワーをすごく感じましたね。勇敢で魅力的なキースをどう表現しようかと、演じれば演じるほどやりがいを感じています」
ギラギラと照りつける太陽。水のない果てしない砂漠。脱出が不可能な異教の世界で、どう生きるべきか。キースは苦悩し、やがてすべてを理解しようと考え始める。「心の目を開き、友情を育み愛を貫く。神は一人だと思ったときに、キースは新しい世界に踏み込むんです」真飛聖さん演じるキースの心の軌跡こそ、新生花組披露公演『愛と死のアラビア』—高潔なアラブの戦士となったイギリス人—を観劇する最大の楽しみなのだ。
「初舞台を踏んだばかりの頃は芝居が苦手で、逃げ出したいと思っていました。それが研5の時、正塚晴彦先生に厳しく指導して頂いたのがきっかけで、芝居が一番おもしろくなって。今も、心が動かなかったら台詞を言わないくらいのこだわりをもっています」役づくりには自分のあらゆる引出しを用いる。役の感情を理解するため、常に感性を磨き、想像力を養う。男役・真飛聖の魅力は、むしろ決して器用とはいえない真摯な努力で培われてきたのだ。
初舞台から11年目の2005年、それは突然の出来事だった。「花組への組替えをお聞きした時は、びっくりしました。星組で温かく育ててもらったので、組替えはどこか他人事だったんです。5組中、もっとも歴史が長く、花から組替えして主演男役になることも多い組。気持ちが引き締まりましたね。新しい環境は楽しいんだけれども緊張もするので、当初は家に帰るとグッタリ。でも自分にはありがたい経験でした」
星組時代、新人公演の主役を3度、バウホール公演の主役や、外部出演公演『Cinderella』の王子役など、二枚目をたくさん演じてきた真飛聖さんだが、花組に来て初めて貴族役を演じることになる。組替え後、初めての大劇場公演『落陽のパレルモ』のロドリーゴ・サルヴァトーレ・フォンティーニ伯爵。続く『ファントム』でもフィリップ・ドゥ・シャンドン伯爵を演じた。「白いイメージの紳士役をもっと学びなさいという神様からのプレゼント。自分が花組で主演をさせていただくには3年という年月が必要だったということです。その間、時間をかけて組子たちに自分を知ってもらえたことはよかったですね」
花組主演のスタートは中日劇場公演『メランコリック・ジゴロ』で、正塚晴彦オリジナル作品の待望の再演だった。「芝居の面白さに気づかせてもらった先生に、主演者として初めての作品を担当していただき、ものすごくうれしかったですね。芝居のテンポは早いし、通常の半分の人数で稽古は大変でしたが、全員、新生花組のやる気に満ちていて、例え一瞬テンポがずれたとしても支え合って何とかなると思えるほど安心感がありました。中日公演のあと、本拠地・宝塚大劇場公演『愛と死のアラビア』『RedHotSea』の集合日に花組全員の顔を見て、その安心感が倍になりましたね」
ただの二枚目にはおさまりきれない真飛聖さんの魅力は、草野旦 作・演出のショー『RedHotSea』でより一層、発揮される。「黒塗りのショーは花組にとって久しぶりで、初めての下級生も多く、熱いエネルギーに沸き立っていますよ。海はこちらの気持ち次第でいろんな姿を見せてくれます。気持ちが沈んでいる時には、その途轍もない大きさを前にして自分がちっぽけな人間に思えたり、逆に元気いっぱいの時は海面と同じようにキラキラした気分になれたり。ちょうど季節も初夏。海へ行きたくてたまらなくなるような舞台をお届けできるよう、がんばっています」
真飛聖さんには『AppartementCine´ma』のオーランド、『明智小五郎の事件簿—黒蜥蜴』の雨宮、『アデュー・マルセイユ』のシモンなど、愛しくて思わず抱きしめたくなるようなアウトサイダー的な役がある。クラシックバレエで鍛えた身体の動きの美しさに加え、無言の立ち姿だけで内面を語り客席との距離を一気に縮めることのできる男役・真飛聖。
「白い心もずっと白いままではなく、黒や灰色に染まる一瞬があるはずです。最初から白い役だけをやってきていたら、出せなかったものがあるかもしれない。その点、私は先に濃い色の役を演じてきて良かったと思います。普段は男っぽいほうではないので、男役を演じる上でマイナスにならないよう、ずっと気をつけてきました。でも今は、普段の私をそのまま見てもらって、舞台の上ではこんなに男っぽくなれるのかという芸を見ていただきたい。そう思うようになって、いつでも素直な自分でいられるようになりました」
大舞台の中央に咲いた大輪の花。何色ものライトを浴び咲き誇る艶やかな花。それは決して観客の幻想ではなく、生きている花自身の命の輝きなのである。
※次号のフェアリーインタビューは星組の麻尋しゅんさんの予定です。