3月23日から4月30日まで、新生星組の宝塚大劇場お披露目公演は、宝塚舞踊詩『さくら』とカリブ海に浮ぶ島々を舞台にしたミュージカル『シークレット・ハンター』。抜群の歌唱力と幅広い演技力の実力派スター安蘭けいが、遠野あすかとともに新主演コンビとして春爛漫の舞台を飾る。
宝塚大劇場での星組トップお披露目公演『さくら』『シークレット・ハンター』がまもなく3月23日に初日を迎える。第93期初舞台生や、新トップ娘役の遠野あすかを含めた総勢132名による豪華絢爛な舞台である。中でも、舞踊詩『さくら』では〝一竹辻が花〟の衣装が安蘭けいさんの艶やかな魅力をさらに華やかに彩る。待ちに待った、春のお披露目公演の、おめでたい幕が上がる日が近い。
「下級生の頃から見ていてくださった方たちがたくさんいて、よかったね、という思いをいっぱいいただきました。私がここまでくるのに年月がかかりましたが、いつも、どんな時でも、トーコさんだからいい、と応援してくれた。そういう人たちがいて、今の私がいるのです」
組の主演者のゆるぎない風格と、気負いのなさ。目標に向かって、あくまでも上質に、真摯に歩み続けてきた人がもつ圧倒的な輝きは、なんと、見る人に癒しを与える。
「桜は、パッと咲いて、パッと散る。いさぎよい花というイメージがあります。日本物のショーに出るのは、実は初めてなんですよ。日本物のお芝居とちがって、当たり前ですがショーは日本舞踊がすべて。日本物のお芝居をいくつか経験しているので日舞が得意と思われているようですが、舞踊会にも出たことがないんです。とはいっても、もちろん所作や着物の着方などの経験はとても役立っています」
意外にも、初めてという日本物ショー。そのプロローグは、一丁析で照明がつくと、満開の桜のもと、桜花の若衆Sの安蘭けいさんを中心に、着飾った若衆や美女に扮した星組スター全員が歌い舞い、たちまち劇場の中はまばゆい非日常の世界へと変化する。やがて次々と現れる節句人形。すましたお内裏様とお雛様に対して、安蘭けいさんが扮するのは荒々しい武者人形だ。だが、次の場面では、平家の落人となり、白拍子との悲恋を歌い舞う安蘭けいさん。
「私たち男役は、男性より男性を研究し、娘役も女性より女性を研究しています。宝塚にいるかぎり、宝塚らしい男役でありたいし、宝塚の男役を楽しみたいですね。5組中、1番情熱的な組を目指します」
と、安蘭けいさんの言葉には迷いがない。
男役の演技には、リアル、ナチュラルという流れもあるが、本来、女性が創り上げる男性像は虚構の深さ、おもしろさで成り立つもの。磨かれ洗練された男役の芸は、誰にも真似ができない。
昨年の暮れ、シアター・ドラマシティで幕を上げ、星組の新トップとして初めて主演した『ヘイズ・コード』は、まずポスターの斬新さに驚いた。どこをどう見ても、相手役・遠野あすかの唇に迫る安蘭けいさんの超アップの顔しか、ない。この美しい男役は誰、と一瞬思い、安蘭けいさんと気づいて二度、美しさに打たれた。伝統的な宝塚の化粧をした男役の顔が、かつてない新しさでファンの胸をドキドキさせたのだ。それが安蘭けいさんの芸、オンリーワンの芸である。
「デザイン画よりも、実際のポスターの顔の方が大きかった。こんなに大きなアップで大丈夫かな、みんな、引かないかな、と思いましたが、インパクトという点ではすごかったし、確かにこれまでにないものでしたね。あれだけ接近すると、目を合わせられないんですよ。近すぎて目が寄ってしまう。だから、二人とも全くちがう方向を向いていました。お互いに、こっぱずかしい気持ちを抑えつつも、吹き出しちゃうようなこともなく、いつもと変わらない撮影現場でしたね。あすかとは、いろんな色に染まれるコンビでありたい。大人っぽいものをやれるコンビと思われながら、『ヘイズ・コード』にしても今回の『シークレット・ハンター』にしても、アダルトな雰囲気というより明るい感じの舞台になっていて、初々しさもあり、ちょっと意外な感じかもしれませんが、二人にはそういう色も出せると思っていただきたい」
こうして振り返ると、これまで宝塚で誰も演じてこなかったタイプの主役を次々とこなし、宝塚歌劇の領域を独自の幅広い演技力で広げてきたことがわかる。
2006年6月、梅田芸術劇場メインホール公演『コパカバーナ』で演じた準主役リコ・カステッリは、二枚目安蘭けいさんにとって初めてのギャング役だったが、圧倒的な存在感で客席を湧かせた。同年8月、宝塚大劇場公演『愛するには短すぎる』の準主役アンソニー・ランドルフでは主役フレッドの湖月わたるとどっぷり絡み、あたたかな鼓動が聞こえてくるような人間味溢れる人物を表現することに成功した。
「コメディはあまりやっていなくて、アンソニーのような役は初めて。間髪を入れずに台詞を喋るのはむつかしく、仕上がるまでにかなりの時間がかかりました。演じる人が心地よいと感じる間では、どんどん時間が延びていくんですよ。台詞と台詞の間がきっちりと決められていたので、スピーディな掛け合いが自然なアドリブのように感じて頂けたようです」
安蘭けいさんは星組に移籍直後、組での順位は2番手だが公演には上級生の新専科スターが出演して作品の役は3番手、という時代が続いた。他の組でも同様の状況だったが、組織の新しい変革時代を乗り切ってきたスターである。
「自分のそれまでの考えに修正を加え、役の大きさより、役そのものを追究して作品で成果を出すことに集中しました」その努力が大きく花開いた。
「目標は高いです。いろんな役に挑戦したい。舞台人としてお客様に感動を与えたいし、作品に共感してほしいという思いがあります。自己満足では駄目。最終的にお客様がどう思われるかが大事な仕事です。常に新しい安蘭けいをみていただけるよう研究しています」
観る人の年代によって伝わってくるものが千変万化する、フトコロの深い舞台を見せてくれる大きなスターである。
※次号のフェアリーインタビューは、星組の和涼華さんの予定です。