2008年の幕開きは2月4日まで上演中の宝塚大劇場雪組公演。 お洒落で華やかなラブ・ロマンス『君を愛してるーJe t'aime』と、ショー・ファンタジー『ミロワール』ー鏡のエンドレス・ドリームズーの2本立て。 愛らしく爽やかな若手ホープの沙央くらま、2度の新人公演主演を経て、何かが変わった。
宝塚大劇場で上演中の『君を愛してる—Jet'aime』『ミロワール』が、3月30日に東京宝塚劇場で千秋楽を迎えると、沙央くらまさんは新人時代を卒業して中堅と呼ばれる学年になる。
「これまで以上にがんばらないと。いかに自分と戦えるか。自分の強さよりも弱さと向き合って克服したい。結果は自分次第なんです」
入団7年目から8年目になる一つの節目を目前に、沙央くらまさんは、そう気持ちを引き締める。最後の新人公演が控えているのだ。
「最上級生として2回、新人公演をやれるのは貴重な経験。主役を演じる蓮城まことと、がんばろうねっ、と話しました。自分が主役の時は何かに追われるように突っ走っていたけれど、今回は周りを見渡して、自分はどうやりたいのか、役割は何なのか、ということをじっくり考えながらしたいです。それが、すごく楽しみ」
『ベルサイユのばら—オスカル編』のオスカル、『エリザベート』のトートという、1本立ての大作の主役を新人公演で演じてきた沙央くらまさん。次は主役ではないかもしれないという思いと向き合った時、いろいろ考える自分がいた。
「結果的に、それがすごく良かった。宝塚は何事もバネにしてがんばれる環境が揃っています。オスカルは初めての主役でした。自分にとって突然のことだったのでビックリしたのですが、主演男役の朝海ひかるさんがどんな思いで1場面1場面大切に演じていらっしゃるか、傍にいて感じることができ、本当に幸せでした。次の新人公演『堕天使の涙』では上級生の凰稀かなめさんが主役をされ、私は壮一帆さんのエドモン・ド・レニエ役。この時は一度、主役を経験して主演者の気持ちがわかりかけていたので、私なりに脇を固められるよう努めつつ、花組に組替が決まっていた壮さんの雪組最後の舞台ということで、感慨もひとしお、忘れられません。トート役は、新主演男役の水夏希さんが初めて宝塚大劇場でお披露目された役で、この大きな役を私が演じるんだ、と緊張したのを思い出します。水さんが細かいところまで丁寧に教えてくださって本当にありがたかったです。このあいだ、自分が演じたトートの場面をダイジェストで観たのですが、あれはホントに自分なのかと。もっとこうやれたのにと冷静に振り返るためには、あと何年か必要なんだと思いました」
そのトート役が沙央くらまの大きな転機になったと、いろんな人から言われる。
「それまでは勢いで演じてしまうところがあり、オスカルの時もバスティーユの場面に向かって突進していきました。でもトートは、いかに冷静に、いかに落ち着いて、すべてを見れるかが要の役。勢いだけでは作品が成り立ちません。トートがキッカケで、自分のやろうとしているものが変わったんです。その後の全国ツアー公演『星影の人』では井上源三郎役をさせていただきましたし、ショー『Joyful!!Ⅱ』では初めてダンスが楽しいと思えました。もともとダンスは大好き。でも、すごく踊れる人が多くて、自分は苦手意識があったんですね。ツアー公演で、やらなきゃという意識に変わり、欲が出てきたんです」
トート役以降、確かに何かが変わったと言う沙央くらまさん。
「最初はルキーニがやりたかったんです。オーディションがあり、私はトートとルドルフと少年ルドルフをやるようにと。30分後にトートのオーディションが控えている状況の中、ルドルフと少年ルドルフの演技に小池先生から厳しい言葉をもらって、立ち上がれないほどのショックを受けたんです。こんな弱気のままでは絶対に後悔すると思い、一人で泣くだけ泣いてあとはやるだけやるしかないという思いでトートに臨み、自分の精一杯の力でやりました。トートに挑戦させて頂いて本当に良かったと思っています。自分にはできない役だと思っていたのでとても貴重な経験でした」
初舞台は2001年4月『ベルサイユのばら2001』。クラシックバレエを習いたくて見学に行った近所のダンススクールが、たまたま宝塚受験生を養成するところだった。先生に勧められて初宝塚観劇したのは『ハウ・トゥー・サクシード』。忽ち、男役をやりたくなり、それからは宝塚を目指してまっしぐらの日々。
「発表の日はドキドキして、母に引っ張られて見に行きました。合格は素直にすごくうれしかった。入学後の試験では、同期全員が絶対負けないぞみたいなオーラを発して合同練習します。その迫力がものすごい。私は一人で練習する方が向いていました。時々、職員室を訪ねて今西副校長先生から舞台のお話をお聞きするのも好きでした。何でも勉強できた、あの学校時代がなかったら今の私はいないなと思います」
雪組に配属され、06年、トップのサヨナラ公演『堕天使の涙』『タランテラ!』では10人の退団者を見送った。今回の『ミロワール』は雪組が大劇場で魅せる久しぶりのショーなのだ。
「気づいたら、前の方で踊らせていただいているんです」
若手を率いるリーダー、沙央くらまさんの活躍が目立っている。
「私の方が下級生に助けられているんです。くらまさん、大丈夫ですよ、と言ってくれます」
最高のリーダーだ。08年を色々な自分と向き合う試練の年、と言い切る沙央くらまさんの舞台姿がまぶしくてならない。
※次号のフェアリーインタビューは
専科の轟悠さんの予定です。
2001年『ベルサイユのばら2001』で初舞台、雪組に配属。
06年『ベルサイユのばら』-オスカル編-で新人公演初主演。07年『エリザベート』新人公演主演。
東京都出身/愛称・コマ、くらま