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月組 桐生 園加

2007年幕開けを飾っている宝塚大劇場月組公演は2月5日まで、宝塚ロマンチック・コメディ『パリの空よりも高く』-菊田一夫作「花咲く港」より-と、ダイナミックなダンスシーン満載のレビュー・ロマネスク『ファンシー・ダンス』。花組から月組へ組替えとなった桐生園加、キレのいいダンスが魅力の若手スターに注目!

舞台には自分との格闘の中でこそ 得られる幸せが…

新春宝塚大劇場月組公演『パリの空よりも高く』『ファンシー・ダンス』に出演中の桐生園加さん。研9の昨年10月2日、花組から移籍後、初めての月組大劇場公演だ。

「楽しいです」と歯切れのいい言葉が返ってくる。「すぐにお稽古に集中でき、なぜ組替えを不安がっていたんだろうと恥ずかしくなりました」

何も言わなくても分かり合える同期生のいない月組への組替え。一緒に汗を流して稽古し、舞台に立った戦友とも言える花組の仲間たちと離れる寂しさ。辞令直後は誰だって少しは不安になるものだが、そんな桐生園加さんを泣きながら送り出したのは花組の仲間たちの方だった。

「みんな泣いて」と、優しい笑顔になって桐生園加さんは話し始める。みんなに泣いて送り出されるなんて、仲間たちに深く愛されている何よりの証拠である。

桐生園加さんが、急にタップダンスを習い始めたのは小学校5年生の時だった。担任の先生が音楽座や劇団四季などの舞台観劇に連れて行ってくれるようになり、やがて桐生園加さんは宝塚歌劇と出会うことに。宝塚受験を決意した舞台は花組公演『スパルタカス』である。

「男役さんたちが総出で、揃いの赤い衣装を着て踊るのを観たときに、私もここで踊りたい、と」

熱い思いを抑えきれず、宝塚受験スクールでジャズダンス、バレエ、声楽などを猛レッスンした。

「好きなことだったので、伸びるのが早かったみたいです」
 念願の初舞台は1998年、新設された宙組のお披露目公演『シトラスの風』。緊張と感動の日々だった。

「初日と千秋楽には同期生みんなで大泣きしました」
 同期生の白羽ゆりと遠野あすかは、すでに娘役トップである。
「みんな向上心が高く、良い刺激になりました。今は12人に減ってしまいましたが」
同年、宙組公演『エリザベート』に出演した。これが桐生園加さんの男役デビュー。翌年、花組に配属された。

「すごくうれしかったです。ダンスの花組と言われていて、すばらしい上級生がたくさんいらっしゃった」

当時花組トップは愛華みれ。その下に匠ひびき、春野寿美礼、瀬奈じゅん、水夏希、彩吹真央、蘭寿とむ、壮一帆、愛音羽麗らの男役スターが揃っていた。

桐生園加さんは花組配属直後の『夜明けの序曲』に、おかっぱ頭の娘役で出演している。

そんな新人時代の思い出をうかがうと、一言、「波乱万丈でした」。

新人時代は新人公演があり、役がつくか、つかないか、どの役を与えられ、どう演じられるかが最大の関心事。誰にも等しく最初の試練がやってくる。スターぞろいの花組ではなおのこと、競争率が高かった。

「同期生に役がついて、自分につかなかったり、その逆もあったり」
 桐生園加さんが研3の時、新人公演『ルートヴィヒII世』でビスマルク役を与えられた。これは大先輩の組長が演じた役。それまでは学年の近い上級生の役ばかりだったから、突然の抜擢に驚いた。

「まだ入団3年目で組長さんの役を?!」と考える間もなく、研4で新人公演『ミケランジェロ』のメンドリーニ役がついた。専科の樹里咲穂が演じた大役だ。台詞の量も格段に多かった。

「実は本読みしながら、メンドリーニを新公でやれたらいいなとひそかに思っていました。でも、いざ配役が発表されると、うれしさ半分、不安いっぱいで。本役の樹里咲穂さんに手取り足取り、たくさん教えていただきました。あの時の経験がなかったら、今の私はいないと思います」

そして研5、新人公演『エリザベート』でルキーニ役をオーディションの末、獲得した。現在、月組トップの瀬奈じゅんが、花組2番手で演じた役である。

「宙組『エリザベート』のときからルキーニをやりたいと思っていて、同期生の話では、舞台袖でいつも真似をしていたそうです。それほど演じたい役だったので、演らせていただけるとわかったときは、すごくうれしかったですね。あんなに歌を歌ったのは初めてでしたが、歌唱指導の先生のお陰で、歌うことがすごく好きになれたし、歌う楽しさを知りました。ルキーニで学んだことはたくさんあるので、もう一回、挑戦したい。今ならもっとできる、前とは違うはずだと自分でわかりますから」

研6になった2003年、『野風の笛』の新人公演で徳川家康を演じ、2004年の『La Esperanza』新人公演でファビエルを演じて新公を卒業した。

「下級生の頃から、若い役からおじいちゃんの役まで、幅広くさせていただいたことが、今の私の財産になっています。当時は、いろんな葛藤がありましたが、長い目で振り返ってみると、こんな立派な役を与えていただいてありがとうございますという気持ちでいっぱいです」

思い返せば、桐生園加さんの人気が高まってきたのは、研4で新人公演『ミケランジェロ』のメンドリーニを演じた頃からである。「応援してくださる方からのお手紙が増え、舞台でも与えられるチャンスが多くなったように思います」
 新人公演を重ねるたびに、確実にステップアップしてきた桐生園加さんが、500席ある宝塚バウホールでのワークショップに単独主演したのは2006年4月だ。

「ワークショップは上級生がダブル主演されてきたので、今回も二人だろうと思っていたら一人。やるしかないと、お稽古の初日から全力投球しました。その前、『落陽のパレルモ』の東京公演中に組替え発表があって、まだ『ファントム』の舞台が残っていましたが、花組の下級生とどっぷり絡めるのは最後になる。自分に与えられるものがあれば少しでも花組に残したい、教えられることは全て教えてあげたい、と思いました。それこそ、お稽古場は汗と涙の青春物語のようでしたね。初めて真ん中に立ってみて、主演男役さんの偉大さがよくわかりました。一人で中央にしっかりと立つ精神力、下級生をひっぱっていくやさしさとか力強さ。いろんなパワーが必要なんですよね。それでいて、みんながいるから、自分がいる、という思い。うれしかったのは、14人全員が心から素直に表現してくれたこと。皆で一つになれた、あの経験は一生の宝物です」

1週間、主役をつとめたバウ・ワークショップ公演。初日から千秋楽へと、桐生園加さんは変化し続けた。

「毎日が自分との格闘ですから、辛いことも多いのですが、だからこそ、できないことができたときの喜びは特別です。過酷な稽古の中で感じる、ほんのちょっとした幸せが忘れられなくて、みんながんばっている。これからどんな男役になっていくか、その過程を見ていただけたらうれしいです」

その明るい懸命な姿に、観客は励まされるのである。

桐生 園加さん

1998年『シトラスの風』で初舞台。翌年花組に配属。2006年『Young Bloods!!』で宝塚バウホール公演初主演。10月付で月組に組替え。 神奈川県出身/愛称・そのか

インタビュアー 名取千里(なとりちさと)
ティーオーエー、現代文化研究会事務局/宝NPOセンター理事主な編著書「タカラヅカ・フェニックス」(あさひ高速印刷)「タカラヅカ・ベルエポックI・II」(神戸新聞総合出版センター)/「仕事も結婚も」 (恒友出版)
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