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花組 華形 ひかる

3月19日まで公演中の宝塚大劇場花組公演は、江戸川乱歩の名作「黒蜥蜴」を宝塚版に脚色したグランド・ロマンス『明智小五郎の事件簿-黒蜥蜴-』と、1920年代から50年代のアメリカをテーマにジャズをふんだんに盛り込んだショー『TUXEDO JAZZ』の2本立て。統一感のあるダンスが魅力、多くのスターを輩出してきた花組で、若手スター華形ひかるが華麗な伝統を受け継ぎ舞台を盛り上げている。

「自分に厳しいと、人生は楽しくなる」をモットーに

「2005年に新人公演を卒業して本公演に、より集中できる状況になり、2006年は慌てずに行こうという目標を立てました。時間に余裕ができた分、自分の役を掘り下げることに全力投球できた1年でした」

シャープでキレがよく、動きも大きい。昨年の花組宝塚大劇場公演『ファントム』の従者で見せた華形ひかるさんのダンスは、観客の視線を引きつけずにはおかなかった。

華形ひかるさんは、宝塚歌劇が85周年を迎えた1999年4月、雪組公演『ノバ・ボサ・ノバ』で初舞台を踏んだ85期生だ。この名作ショーは通常より上演時間が長く、1場面の出演者数も多い。つまり初舞台生にとって、新人公演の出番が非常に多くなる、異例のお披露目公演だった。

「初めての新人公演でかなりの場面に出演させていただき、手も足も出ない状態で、こういう初舞台もあるのかと、衝撃を受けました。今ではなつかしい思い出ですが、これからこのような新人公演を何回経験するのだろうと、思わず同期生と数えましたね。続演の月組でも、またちがう場面に出ることになり、必死だったことしか覚えていません」

感動したのは、2500人もの観客のあたたかい拍手。初めての体験だった。

「こんなに大きな劇場に立てて、たくさんのお客様に観ていただける。大劇場に見合うスターになろう、この舞台でがんばろう!と思いました」

それは感涙よりも熱く、華形ひかるさんをふるいたたせた決意だった。

翌2000年、花組に配属になった華形ひかるさんは、『源氏物語あさきゆめみし』の新人公演で夕霧に抜擢された。本役は瀬奈じゅん。一人で歌う場面もあり、入団2年目の新人が演じるには大役だった。

「当時の私は、ただひたすら、与えられた役と向き合い格闘していただけで、大きな役をいただいたということにまでは思いが至りませんでした。その頃から花組の同期生と一層助け合うようになり、お互いに分かり合えることも増えてきたので、当時の思い出は鮮明ですね」

そんな、一心不乱に走り続けてきた最下級生時代がすぎ、華形ひかるさんは新人公演メンバーを率いる中心的な存在になっていく。

2005年4月、『マラケシュ・紅の墓標』の新人公演で、華形ひかるさんはレオン役を演じた。本公演では専科の樹里咲穂が演じたワル。野心をもつ詐欺師の役だ。華形ひかるさんは、屈折した思いを隠し持つ人間の複雑さを表現し、役者としての大きさを感じさせた。

同年11月、『落陽のパレルモ』の新人公演で初主演。これを最後に新公を卒業した。

「新人公演の長というのは、自分たちの学年が1番上で、あとは下級生ばかり。本公演の組長さんや主演男役さんの意識レベルを目標にして、みんなを引っ張っていかなきゃいけないと、改めて思いました。新人公演は1回きりで、そのパワーにはすごいものがありますが、その良さとは別に、同じメンバーで同じ芝居を毎日演じても恥ずかしくないものをつくらなければいけないんですよね。舞台人なら、1回にかけるのではなく、明日からもやれるという気持ちを持つべきだと教わりました」

かけがえのない勉強の場であった新人公演を卒業後、華形ひかるさんは『ファントム』の新人公演を初めて客席で観た。

「がんばっている下級生たちを応援しながら観たのはもちろんですが、一方、あの場面はああいうライトなんだ、だとすると自分はこう動いた方がいいかもしれないなど、本公演に出演していて観れないところを客観的に観ることができ、良い勉強になりました。たとえば緊張感が走る場面でも、客席ではいろんなことを感じられます。あ、こういう音が流れていたんだと分かったり。やはり舞台の上では役が感じることしか感じていないんですよね。新人公演が終わった時はさみしかったのですが、卒業したからこそ味わえる気持ちがあることがわかりました。日頃、上級生がどんな思いでがんばっていらっしゃるか、少しはわかってきたのではないかと思います」

花組育ちの華形ひかるさん。伝統的にダンスの花組と言われ、これが花組のダンス!、とファンが期待する、華麗な伝統を受け継ぐ一人である。

「花組では踊り方以外にも、エンビ服を着た時に見えるベストは何センチがきれいだとか、エンビ服のどこをどう持つかということまで、細かく決めています。リーゼントも、エンビ服を着たときは前髪をたらさないのが花組のやり方。個性を出すところは思いっきり出して、揃えるところは徹底的に揃える。みんなが場面の長のスタイルに合わせることで、場面全体が完璧に美しくなります。踊り方はもちろん、衣装などの細かい部分も打ち合わせて統一することが花組ダンスのコツといえるかもしれません」

そして仕上げは、ナマの舞台。毎日立つことで、どんどん磨きがかかっていくのだ。

「本当にそうだと思います。初日と千秋楽は、全く別人に見えるように成長したいです。

そのために日々、新鮮な気持ちを忘れずに演じています。主演男役の春野寿美礼さんは『ファントム』の時、従者の私がアクションを起こしたら、必ずきちんと返してくださいました。基本的なラインは崩しませんが、一人の人間の人生を背負って毎日舞台に立っていると、感情の流れはその時々で微妙にちがうものです。『落陽のパレルモ』では春野さん演じるヴィットリオが怒る場面で大声を出されたことがありました。そこでこちらがいつもの芝居をしていたら、嘘になっちゃうだろうなと思いますよね。歌い方だってちがうんですから。自分の自己満足かもしれませんが、熱い気持ちをもらったら真心を返したいと思いますよ」

華形ひかるさんの次の舞台は、2月9日から始まる花組宝塚大劇場公演『明智小五郎の事件簿-黒蜥蜴-』『TUXEDO JAZZ』。刑事役で出演する江戸川乱歩作「黒蜥蜴」の宝塚版『明智小五郎の事件簿』は、春野寿美礼が扮する名探偵・明智と桜乃彩音の女賊・黒トカゲとの心理的な駆け引きが主軸。

「私は、明智小五郎の親友の波越警部の部下を演じます。エリートの新米刑事で、お坊ちゃま風。スリリングなドラマの中で、笑っていただく場面の担当ですね。私自身、人生を楽しく生きようというタイプ。自分に厳しいと、人生は楽しくなる、がモットー。時々、海に潜りに行くのは、リフレッシュのためです。見たこともない海の中で、ああ、きれいだなと感じることが、心を大きく広げてくれる。そんな体験を繰り返すと、たとえば『あなたが好き』という気持ちが『すごく好き』に成長する。『ちょっとおいしい』も『めちゃくちゃおいしい』になる。そうやって生きていけば、来年はもっと大きな自分になれるんじゃないかなと」

きっと、そうなる。華形ひかるさんの胸の中で、未来がキラキラ輝いている。

華形 ひかるさん

1999年『ノバ・ボサ・ノバ』で初舞台。花組に配属。2005年『落陽のパレルモ』で新人公演初主演。 東京都出身/愛称・みつる

インタビュアー 名取千里(なとりちさと)
ティーオーエー、現代文化研究会事務局/宝NPOセンター理事主な編著書「タカラヅカ・フェニックス」(あさひ高速印刷)「タカラヅカ・ベルエポックI・II」(神戸新聞総合出版センター)/「仕事も結婚も」 (恒友出版)
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