トップページ > 2008年07月号 >フェアリーインタビュー

星組 麻尋 しゅん

6月20日から8月4日まで上演の宝塚大劇場星組公演は『THE SCARLET PIMPERNEL』。タイトルの「スカーレット・ピンパーネル(紅はこべ)」は、フランス革命の最中、革命政府に捕らえられた貴族たちを救い出すイギリス秘密結社の名前。ブロードウェイで大ヒットし、今なお全米およびヨーロッパ各国で上演されている人気のミュージカルが、宝塚バージョンで上演される。今春バウ・ワークショップで主演を果たした麻尋しゅん、正義のために団結したイギリス青年貴族ファーレイの心を創り上げ舞台に立つ。

台詞、歌、ダンスが躰を通して心の言葉に

2002年4月、『プラハの春』で初舞台を踏んだ麻尋しゅんさんは、翌年『王家に捧ぐ歌』の新人公演で、準主役の王女アイーダ役に抜擢された。イタリアの作曲家ヴェルディのオペラ「アイーダ」の宝塚バージョンで、全編を歌で綴った、斬新な意欲作だ。

「アイーダ役を頂いた時は、うれしくてうれしくて。ただ音楽学校時代から勉強してきたのは男役の歌唱。キーの高い娘役の歌をうたうと蚊のなくような声しか出ないんです。声が出ないと舞台に立てない。明日になれば出るかもしれないと思いながら新人公演を迎え、感情だけを精一杯込めて歌いました。舞台の恐さを知らなかった当時の自分がなつかしいですね」

麻尋しゅんさんが小さい頃から習っていたのはモダンバレエ。中学時代、同級生が貸してくれた宝塚のビデオを観て、この舞台に立ちたいと思いつめた。その願いは15歳で叶う。合格した高校には進まず、憧れの宝塚音楽学校の制服に身を包んだ。心で演じた、と好評だったアイーダ役のあとも、『花舞う長安』の皇甫惟明、『長崎しぐれ坂』の卯之助、そして『ベルサイユのばら』—フェルゼンとマリー・アントワネット編—のオスカルなどを新人公演で演じ、2007年『シークレット・ハンター』ではダゴベール役で新公初主演を果たした。

「まだ、この頃は上級生の真似をしていただけです。今年5月にバウ・ワークショップ『ANNA KARENINA』で主演をさせていただき、たくさんのことを学びました。自分にとって主役とは技術的にも精神的にも尊敬できる上級生が演じるもの。果たして自分はどうなんだろうかと、正直言って不安でした。どうしてお芝居に苦手意識があるのかなと考えた時に、自分は形や見た目から役作りを始めてしまう傾向があることに気づいて、外からの見え方に気をとられるのではなく、役が抱えているほんの少しの気持ちも見逃さずに感じることが大事なのだと理解しました。例えば、ダゴベールは人の痛みが分かる人間なのにどうして泥棒みたいな真似をするんだろう、きっと何か人に見せたくない辛い思いがあって、その思いが時々、出てくるのだろうと。彼は子どもの頃に人からもらったコインを宝物にしているのですが、本当は自分自身で宝物を見つけたいと思っていて、その探し方が不器用で道に迷ってしまう。最終的にはそれが人の愛であることに気づくのですが、最初から泥棒として演じると何もおもしろくない魅力のない人物になってしまいます。『ANNA KARENINA』のヴィロンスキーは誰からも愛される知的で才能にあふれた人物。当然、身のこなしも素敵でなければ、という思いに捉われて、お稽古を始めたばかりの頃は彼の内面の強さが表現できなかった。上級生に比べて未熟な部分があっても、アンナを愛する気持ちだけは誰よりも強くもっていようと考えました」

そのバウ初主演後、麻尋しゅんさんにとって初めての宝塚大劇場公演が6月20日に初日を迎える。1997年にブロードウェイで初演され、98年にはトニー賞のミュージカル作品賞、ミュージカル脚本賞、ミュージカル男優賞にノミネートされたバロネス・オルツイ原作の「THE SCARLET PIMPERNEL」。今なお全米やヨーロッパ各国で上演され続けているこのヒット作を小池修一郎氏が宝塚バージョンに潤色・演出した『THE SCARLET PIMPERNEL』だ。音楽はフランク・ワイルドホーン氏。小池氏との共作、2006年の宙組公演『NEVER SAY GOODBYE』の全編に流れる感動的なワイルドホーン・メロディを思い出す人は多いだろう。

「フランス革命の最中、革命政府に捕らえられたフランスの貴族を救おうとするイギリス貴族ファーレイを演じます。物語の前半、彼は主役の友人パーシーとマルグリットが結婚式を挙げた翌朝、クリケットをやろうよと誘いに行きます。一見、人の迷惑を考えないノーテンキな青年ですよね。でも彼はパーシーが大好きだから、結婚したての幸せそうなパーシーと、どうしてもクリケットをやりたいし、マルグリットとの馴れ初めももう一度深く聞きたい。誘うのには彼なりの理由があるんです(笑)」

何不自由ない幸せなイギリスの青年貴族が、ある日、フランス貴族を救うことを決意し、人のために命を賭けて本当の男になっていく。タイトルのスカーレット・ピンパーネルとはフランス革命政府に捕らえられ、断頭台の露と消える運命にある無実の命を救い出すイギリス秘密結社の名。その首領がパーシー・ブレイクニー。正義のために団結した一団の最大の狙いは、亡きフランス国王の遺児ルイ・シャルル救出。決意を固めたファーレイの目が鋭い輝きを帯び、表情が一転する瞬間を見逃すわけにはいかない。

「役の心を段階的に創り上げ、役として生きたい。ファーレイがそこに立っている意味は何か。存在理由を追究するおもしろさを見つけた時に、芝居が自然に心からできるようになるのではないかと思います」

台詞、歌、ダンスが、麻尋しゅんさんの身体を通して心の言葉になる。
今、この瞬間、麻尋しゅんさんが舞台に立っている意味が、はっきりと見えてくる舞台である。

麻尋 しゅんさん

2002年『プラハの春』で初舞台、星組に配属。03年『王家に捧ぐ歌』新人公演で娘役アイーダを好演。07年『シークレット・ハンター』で新人公演初主演。08年バウ・ワークショップ『ANNA KARENINA』でバウ初主演。富山県出身/愛称・えり、しゅん

インタビュアー 名取千里(なとりちさと)
ティーオーエー、現代文化研究会事務局/宝NPOセンター理事主な編著書「タカラヅカ・フェニックス」(あさひ高速印刷)「タカラヅカ・ベルエポックI・II」(神戸新聞総合出版センター)/「仕事も結婚も」 (恒友出版)
宝塚の情報誌ウィズたからづか

ウィズたからづかの最新コンテンツ